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全国に伝わるもの

逆柱(さかばしら)とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品

逆柱  / サカバシラ

器物と草木 各地の伝説

木が生えていた向きと上下逆に立てた柱。夜に音を立て、家運を傾けると忌まれた。

逆柱の姿を描いた図

鳥山石燕 「画図百鬼夜行 逆柱」 1776年 / パブリックドメイン 出典

逆柱とはどんな妖怪か

逆柱はひとことで言えば、上下を間違えて立てられた柱です。

日本の木造建築にまつわる俗信の一つです。木材を建物の柱にするとき、木が本来生えていた方向と上下を逆にして立ててしまうことを逆柱といいます。逆さ柱」とも読みます。

古くから、逆柱にされた木は夜中になると家鳴などを起こすといわれました。

さらに、家運を衰えさせ、火災などの災いや不吉な出来事を引き起こすともいわれ、深く忌み嫌われました。

井原西鶴の『西鶴織留』には、京都六角堂の前の家に住む夫婦が、毎晩のように梁が崩れるような音に悩まされ、ついに引っ越したという話が載ります。

一方で、あえて逆柱を入れる建物もあります。完成させないことで災いを避けるという考え方によるものです。

逆柱の漢字表記と読み方

読みは「さかばしら」です。「さかさばしら」とも読みます。

木には、根に近いほうと梢に近いほうがあります。生えていたときと同じ向きに立てるのが、大工の当たり前の作法でした。

その向きを取り違えて立ててしまうことが「逆」と呼ばれます。

家鳴り」は「やなり」と読みます。夜中に家の柱や梁が音を立てる現象を指す言葉です。

木材は乾燥や湿気によって縮んだり伸びたりします。そのとき、継ぎ目がきしんで音が出ます。

この音に名を与えたのが家鳴りです。 逆柱は、その原因として名指しされました。

「家鳴り」という言葉自体が、後に妖怪の名としても使われるようになります。

逆柱(さかばしら)

最も広く用いられる表記。

逆さ柱(さかさばしら)

同じものを指す表記。

家鳴り(やなり)

柱や梁が夜中に音を立てる現象。逆柱が原因とされた。

逆柱の姿と特徴

逆柱には、目に見える姿がありません。

見えるもの … ありません。柱は普通の柱に見えます。
聞こえるもの … 夜中の家鳴り。梁が崩れるような音。
聞こえた例 … 「首が苦しい」という声。
もたらすもの … 家運の衰え、火災、不吉な出来事。

小田原では、こんな話が伝わります。

ある商家で祝い事の最中に「首が苦しい」という声が聞こえてきました。声の主を捜したところ、座敷の柱から声が発せられており、その柱が逆柱であることが分かったといいます。

逆さに立てられた木が、首を吊られたように苦しんでいるという受け取り方です。

昭和以降の妖怪の本には、逆さにされた柱から木の葉の妖怪が出るとか、柱自体が妖怪と化すという紹介があります。

これは漫画家による説明です。

逆柱の伝承物語

  1. 木の向きが問われる理由
  2. 西鶴が書き留めた家鳴り
  3. わざと逆にする柱
  4. わざと未完成にする作法
  5. 妖怪としての逆柱をめぐって

木の向きが問われる理由

逆柱がなぜ忌まれたのか。その背後には、木を生きものとみる感じ方があります。

木には、根から梢へという向きがあります。水はその向きに流れ、年輪もその向きに刻まれます。

伐って製材してもなお、木にはその向きが残っている。大工たちはそう考えました。

生えていたときと同じ向きに立てれば、木は落ち着きます。逆に立てれば、木は落ち着きません。

だから夜中に音を立てる。だから家に災いが及ぶ。

これは迷信と言えばそれまでですが、まったく根拠がないわけでもありません。木材には向きによって強さの差があり、乾燥に伴う変形の仕方も変わります。

大工の技として理にかなった部分と、俗信としての部分が、分かちがたく結び付いています。

小田原の「首が苦しい」という声の話は、この感じ方を最もよく表しています。逆さに吊された木が、苦しみを訴えているというのです。

西鶴が書き留めた家鳴り

逆柱の記録として知られるのが、井原西鶴の『西鶴織留』です。

そこにはこうあります。京都の六角堂の前にあるとある家に住む夫婦が、逆柱の怪異に悩まされていました。

家では毎晩のように、梁が崩れるような音が響きます。

ついに夫婦は、その家を引っ越していったといいます。

短い記述ですが、含みは大きなものです。

まず、この夫婦は音の原因を逆柱だと知っていました。つまり、逆柱という考え方が当時すでに広く知られていたことになります。

次に、彼らは柱を直そうとせず、家を出ました。柱を入れ替えるには、建物を大きく壊さなければなりません。それより引っ越すほうが早かったのです。

家を建て直すことは、当時の人々にとって大きな負担でしたでした。

だからこそ、建てる前の段階で防ぐことが重んじられました。逆柱への強い忌みは、取り返しがつかないことへの恐れでもあります。

わざと逆にする柱

逆柱には、まったく逆の使い方があります。魔除けとして、あえて逆に立てるのです。

日光東照宮の陽明門は、この逆柱があることで知られています。柱のうち一本だけ、彫刻の模様が逆向きになっているため、逆柱であることが分かります。

これはわざと逆にしたものです。

「建物は完成と同時に崩壊が始まる」という考えを逆手に取り、わざと柱を未完成の状態にすることで災いを避けるという趣旨だとされています。

わざと未完成にする作法

ただし、これは妖怪の伝承としての逆柱とはまったく異なるものです。

同じ考え方は、古くからありました。

鎌倉時代の『徒然草』第八十二段には、こうあります。

總て何も皆事整ほりたるはあしき事なり。爲殘したるを、さてうちおきたるは、面白く、生き延ぶる事(わざ)なり。

内裏についても、名を挙げて書かれています。

「内裏造らるゝにも、必ず造りはてぬ所を殘す事なり。」と、ある人申し侍りしなり。

江戸時代には、家を建てるとき「瓦三枚残す」と言ったといいます。

完璧を避ける。満ちたものは欠けるほかないから、あらかじめ欠けさせておく。

この発想は、日本の建物のあちこちに残っています。

妖怪としての逆柱をめぐって

逆柱は、妖怪と呼ぶには少し変わった存在です。

姿がありません。何かが現れるわけでもありません。建て方の失敗そのものが怪異とされているのです。

そのため、逆柱を妖怪の一覧に入れるかどうかは、本によって扱いが分かれます。

昭和以降の妖怪の本には、逆さにされた柱から木の葉の妖怪が出現する、あるいは柱自体が妖怪と化すという紹介があります。

これは妖怪漫画家による説明です。

姿の無い俗信に姿を与えたものと言えます。

では、逆柱は妖怪ではないのか。そうとも言い切れません。

夜中に音を立てる。家運を傾ける。声を発する。これらはすべて、意思を持つものの振る舞いです。

家という、人が毎日を過ごす場所が、思い通りにならないものになる。その不安が逆柱という言葉に集められています。

姿が無いからこそ、この怪異はどこの家にも入りこめました。

逆柱の伝承地域

逆柱は、特定の土地に結び付いていません。 木造の家であれば、どこでも起こり得るものとされました。

書物に記された話としては、井原西鶴の『西鶴織留』が京都六角堂の前の家を挙げ、また小田原の商家の話が伝わります。

どちらも「とある家」としか記されておらず、その家を特定することはできません。

日光東照宮の陽明門には逆柱がありますが、これは魔除けのためにわざと逆にしたもので、妖怪伝承の逆柱とはまったく異なるものです。ここを逆柱の怪異の場として挙げることはできません。

そのため、この怪異をたずねて行ける場所はありません。

逆柱の正体と考えられているもの

逆柱という考え方の成り立ちについては、次のような見方があります。

木を生きものとみる感じ方によるとする見方があります。木には根から梢への向きがあり、伐ってもその向きは残ると考えられました。逆に立てれば落ち着かない、というわけです。

大工の技として理があるとする見方もあります。木材は向きによって強さが違い、乾燥に伴う変形の仕方も変わります。取り違えれば実際に不具合が出ます。

家鳴りに説明を与えたとする見方もできます。木材が湿気や乾燥で伸縮すれば、継ぎ目がきしんで音が出ます。その原因を求める言葉が必要でした。

取り返しのつかなさへの恐れとする見方もあります。建ててしまった柱は容易に取り替えられません。だからこそ、建てる前の忌みが強くなりました。

どれか一つに決めることはできません。 ただ、逆柱が姿を持たない怪異であること、そして建物という日常そのものに宿る不安であることは確かです。

逆柱をめぐる妖怪のつながり

逆柱が登場する作品

逆柱は、姿を持たないまま語り継がれてきた怪異です。

そのため、絵に描かれることがほとんどありませんでした。石燕の画集にも見えません。

昭和以降になって、柱そのものが妖怪と化す姿が描かれるようになりました。これは後の世の造形です。

一方で、日光東照宮の陽明門のように、逆柱を積極的に取り入れた建物は実在します。

同じ言葉が、忌むべきものと魔除けの両方を指す。逆柱は、日本の建物をめぐる考え方の複雑さをよく示しています。

逆柱が登場する書物

西鶴織留

井原西鶴の著。京都六角堂前の家が逆柱の怪異に悩まされた話を載せます。

徒然草

完全なものは良くないとして、内裏を造るときも造り残しをすると記します。

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逆柱が登場するそのほか

日光東照宮 陽明門

魔除けとしてわざと逆柱を入れた例。妖怪伝承の逆柱とは異なります。

瓦三枚残す

江戸時代の言い回し。あえて未完成にして災いを避ける考え方です。

逆柱が登場する漫画・アニメ

妖怪を扱う各種の作品

柱そのものが妖怪と化す姿で描かれることがありますが、昭和以降の解釈です。

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逆柱についてよくある質問

逆柱とは何ですか。

木材を建物の柱にするとき、木が本来生えていた方向と上下を逆にして立ててしまうことをいいます。夜中に家鳴りを起こし、家運を衰えさせ、火災などの災いを招くとして忌み嫌われました。

なぜ木の向きが問題になるのですか。

木には根から梢への向きがあり、伐って製材してもその向きは残ると考えられたためです。生えていたときと同じ向きに立てれば落ち着き、逆に立てれば落ち着かないとされました。

どんな怪異が起きるとされましたか。

夜中の家鳴りが最も広く語られます。井原西鶴の『西鶴織留』には、毎晩梁が崩れるような音がして夫婦が引っ越した話があります。小田原では、柱から「首が苦しい」という声が聞こえたと伝えられます。

日光東照宮の逆柱は同じものですか。

違います。陽明門の逆柱は、建物は完成と同時に崩壊が始まるという考えを逆手に取り、わざと未完成にして災いを避けるためのものです。妖怪伝承の逆柱とはまったく異なります。

柱から妖怪が出るというのは本当ですか。

昭和以降の妖怪の本による説明です。逆さにされた柱から木の葉の妖怪が出る、柱自体が妖怪と化すという紹介があります。いずれも後の世の造形です。

逆柱と併せて覚えたい言葉・用語

家鳴り(やなり)

夜中に家の柱や梁が音を立てる現象。逆柱が原因とされた。

西鶴織留(さいかくおりどめ)

井原西鶴の著。逆柱に悩まされた夫婦の話を載せる。

陽明門(ようめいもん)

日光東照宮の門。魔除けとしてわざと逆柱を入れている。

瓦三枚残す(かわらさんまいのこす)

江戸時代の言い回し。あえて未完成にして災いを避けること。