夜になると泣き声を発するという石。静岡県小夜の中山のものが代表とされる。

鳥山石燕 「今昔百鬼拾遺 夜啼石」 1780年 / パブリックドメイン 出典
夜泣き石とはどんな妖怪か
夜泣き石はひとことで言えば、夜になると泣く石です。
石にまつわる日本の伝説の一つで、各地にさまざまな夜泣き石があります。
大別すると二種類に分かれます。
泣き声がするもの
子どもの夜泣きが収まるもの
なかでも静岡県の小夜の中山の夜泣き石がよく知られています。身重のまま殺された母が乗り移った石が、子を思って泣くと伝えられます。
日本各地の夜泣き石のなかには、小夜の中山のように殺された者の霊が乗り移って泣き声をあげるといわれるもののほか、石そのものが怪音を出すといわれるものも多くあります。
石が声を発するという言い伝えは古く、奈良時代の記録にもさかのぼります。
夜泣き石の漢字表記と読み方
読みは「よなきいし」です。
「夜泣き」には二つの意味があります。
一つは、石が夜に泣くこと。もう一つは、子どもの夜泣きです。
同じ「夜泣き石」という名でありながら、この二つはまったく逆の性質を指しています。
石が泣くほうは怪異です。子どもの夜泣きが収まるほうは、御利益にあたります。
栃木県河内、和歌山県有田市、宮崎県西臼杵郡高千穂町の槵觸神社周辺の夜泣き石は、子どもの夜泣きが収まると伝えられるものです。
名だけを見て、どちらの話か判断することはできません。 土地ごとに確かめる必要があります。
夜泣き石(よなきいし)
もっとも一般的な表記。
夜泣石(よなきいし)
送り仮名を省いた書き方。
小夜の中山(さよのなかやま)
代表的な夜泣き石のある峠の名。
夜泣き石の姿と特徴
夜泣き石の姿は、それぞれの土地の石そのものです。
共通するもの … 夜に音や声を発する。
小夜の中山では … 殺された母の霊が乗り移り、子を思って泣く。
そのほかでは … 石そのものが怪音を出すとされるものも多い。
決まった形はありません。 巨石のこともあれば、人の背丈ほどのこともあります。
栃木県日光市の花石町と久次良町に点在する巨石群の一つも、夜泣き石とされます。
日本には、石が声を発したり人を化かしたりする言い伝えが各地にあります。
岡山県の杓子岩 … 夜に通行人に「味噌をくれ」と言って杓子を突き出した。
岡山県のこそこそ岩 … 夜に人が通ると「こそこそ」と音を立てた。
香川県のオマンノ岩 … 人が通ると中から老婆が現れ「おまんの母でございます」と名乗った。
長野県の物岩 … 命を狙われている者が通りかかったとき「殺されるぞ」と声を出し、命を救った。
石が口をきくという発想は、日本各地に広く分かれて存在しています。
夜泣き石の伝承物語
小夜の中山の夜泣き石
夜泣き石のなかで、代表とされるのが静岡県掛川市佐夜鹿の小夜の中山峠にある石です。
小夜の中山は、東海道の難所として古くから知られた峠です。歌に詠まれることも多い場所でした。
ここに伝わる話は、次のようなものです。
身重のまま殺された母が乗り移った石が、子を思って泣くといわれています。
母が殺され、その霊が石に移る。そして生まれてくるはずだった子を思って、夜ごと泣く。
峠という場所に注目してください。
峠は、村と村のあいだにある人気のないところです。旅人が通り、夜には誰もいなくなります。
そうした場所で、夜に何かの音が聞こえたとき、人はそれを説明する話を求めます。
小夜の中山は東海道の難所であり、旅人にとって恐ろしい場所でした。この石の話は、そうした土地の性質と結び付いています。
夜泣き石は各地にありますが、代表として名が挙がるのはここです。
泣く石と、泣きやませる石
夜泣き石は、性質によって大きく二つに分かれます。
泣き声がするもの
栃木県日光市の花石町と久次良町に点在する巨石群の一つ。
千葉県市川市の国府台里見公園。
静岡県掛川市佐夜鹿の小夜の中山峠。
長野県飯田市。水害の時に子どもが亡くなったという言い伝えがあり、夜中になると泣く声がします。
京都府京都市の八坂神社。
大阪府交野市の源氏の滝。
兵庫県三田市の御霊神社。
このうち兵庫県三田市のものには、変わった話が伝わります。
城の庭から社へ帰りたいと泣く
城の庭に召し上げられたものの、元あった社に帰りたいと夜ごと泣き、社に戻されたといわれています。
石が自分の帰る場所を主張したことになります。
子どもの夜泣きが収まるもの
栃木県河内の法華寺跡地。
和歌山県有田市。
宮崎県西臼杵郡高千穂町の槵觸神社周辺。
こちらは怪異ではなく、御利益として語られています。
同じ名の伝説が、まったく逆の意味を持つという点が、夜泣き石の面白いところです。
石は古くから声を出し、祟るものだった
石が声を発するという考えは、たいへん古いものです。
『続日本紀』の宝亀元年、七七〇年二月二十三日の条に、次のような記述があります。
西大寺の東塔の心礎を壊し捨てた。石の大きさは一丈四方あまり、厚さ九尺で、東大寺の東の飯盛山にあった石であった。
初め数千人で引き動かしたが、一日に数歩分しか進まず、時には唸り声がした。そこで人夫を増やし、九日かかってやっと運んだ。
その後、加工されたが、男女の巫の中に石の祟りがあるかもしれないという者があった。
そこで柴を積んで石を焼き、三十石あまりの酒を注いで、細かく砕いて道路に捨てた。
砕いた石の祟りで天皇が病む
一か月後、天皇が病となった。占った結果、砕いた石の祟りと出たので、石を拾い、清らかな土地に置き、人馬が踏まないようにした。
奈良時代の正史に、石が唸り、祟った記録が残っているわけです。
さらに古い層もあります。記紀の神代の記述には「石草木ものいう」という表現が見られます。
つまり、世界が始まったばかりの頃は石も草も木も口をきいた、という考え方がありました。
夜泣き石の伝説は、この古い層の上に立っています。
石が声を出すのは特別なことではなく、もともとそういうものだった。そう考えられていた時代の記憶が、各地の夜泣き石に残っています。
夜泣き石の伝承地域
夜泣き石は日本各地にあり、一つの土地に定まりません。
代表とされるのは静岡県掛川市佐夜鹿の小夜の中山です。身重のまま殺された母の霊が乗り移り、子を思って泣くと伝えられます。
そのほか、泣き声がするものとして栃木県日光市、千葉県市川市の国府台里見公園、長野県飯田市、京都府の八坂神社、大阪府交野市の源氏の滝、兵庫県三田市の御霊神社があります。
子どもの夜泣きが収まるものとしては、栃木県河内の法華寺跡地、和歌山県有田市、宮崎県西臼杵郡高千穂町の槵觸神社周辺があります。
同じ名でありながら、土地によって意味が逆になります。
小夜の中山(さよのなかやま)
代表的な夜泣き石のある峠
小夜の中山の所在地:静岡県掛川市佐夜鹿
夜泣き石のなかで代表とされる石があります。
身重のまま殺された母が乗り移った石が、子を思って泣くと伝えられます。
小夜の中山は東海道の難所として古くから知られた峠で、歌に詠まれることも多い場所でした。
人気のない峠という場所の性質が、この伝説と深く結び付いています。
峠には複数の石が伝わっており、来歴には諸説あります。
御霊神社(ごりょうじんじゃ)
社に帰りたいと泣いた石
御霊神社の所在地:兵庫県三田市
城の庭に召し上げられたものの、元あった社に帰りたいと夜ごと泣き、社に戻されたと伝えられる夜泣き石があります。
石が自分の帰る場所を主張したという珍しい話です。
各地の夜泣き石のなかでも、望みを訴えるために泣くという形は多くありません。
石の来歴を示す記録は確かめられませんでした。
夜泣き石の正体と考えられているもの
夜泣き石の正体については、次のように考えられています。
殺された者の霊が乗り移ったとする見方が、小夜の中山の話にあたります。身重のまま殺された母が、生まれるはずだった子を思って泣くという形です。
石そのものが音を出すとする見方もあります。各地の夜泣き石には、霊の話を伴わず、石が怪音を発するとだけ伝えるものが多くあります。
古くからの石への畏れとする見方が、もっとも深い層です。『続日本紀』には、運ばれる石が唸り声をあげ、砕かれた後に祟ったという記録があります。 奈良時代の正史に残る話です。
石も口をきくものだったとする考え方も背景にあります。記紀の神代の記述には「石草木ものいう」という表現が見られます。
峠や境目に置かれた石とする見方も成り立ちます。小夜の中山は東海道の難所でした。人気のない場所の物音を説明する話として、この伝説は働きます。
御利益として語られる場合もあります。 子どもの夜泣きが収まるという夜泣き石は、信仰の側の石です。
一つの名に、まったく違う話が集まっているのが、夜泣き石の実際の姿です。
夜泣き石をめぐる妖怪のつながり
夜泣き石が登場する作品
夜泣き石は、その土地に行けば実際に見られる怪異です。
声だけが残る怪異ですが、石そのものは各地に現存します。
小夜の中山の石は、東海道の難所という土地の記憶とともに語り継がれてきました。
石が声を出すという言い伝えは、奈良時代の正史にまでさかのぼります。夜泣き石は、その古い考え方が形を変えて残ったものといえます。
夜泣き石が登場する書物
夜泣き石が登場するそのほか
各地に残る夜泣き石
静岡・栃木・千葉・長野・京都・大阪・兵庫などに伝えられています。
小夜の中山を詠んだ歌
東海道の難所として、古くから多くの歌に詠まれてきました。
夜泣き石が登場する漫画・アニメ
怪異を扱う各種の作品
泣く石として、小夜の中山の話をもとに描かれることがあります。
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夜泣き石についてよくある質問
夜泣き石とは何ですか。
夜になると泣き声を発するといわれる石です。日本各地にあり、大きく「泣き声がする」ものと「子どもの夜泣きが収まる」ものに分かれます。
いちばん有名な夜泣き石はどこですか。
静岡県掛川市佐夜鹿の小夜の中山峠にあるものです。身重のまま殺された母が乗り移った石が、子を思って泣くと伝えられます。
なぜ同じ名で意味が逆なのですか。
「夜泣き」に二つの意味があるためです。石が夜に泣くという怪異と、子どもの夜泣きが収まるという御利益とが、同じ名で呼ばれています。土地ごとに確かめる必要があります。
石が声を出す話は古いのですか。
古いものです。『続日本紀』宝亀元年の条には、運ばれる石が唸り声をあげ、砕かれた後に祟ったという記述があります。記紀の神代の記述にも「石草木ものいう」という表現が見られます。
ほかに石の怪異はありますか。
あります。岡山県の杓子岩は夜に「味噌をくれ」と言い、こそこそ岩は人が通ると音を立てました。香川県のオマンノ岩は老婆が現れて名乗り、長野県の物岩は「殺されるぞ」と声を出して人の命を救ったといいます。
夜泣き石と併せて覚えたい言葉・用語
小夜の中山(さよのなかやま)
静岡県掛川市の峠。東海道の難所で、代表的な夜泣き石がある。
続日本紀(しょくにほんぎ)
奈良時代の正史。唸り声をあげる石と、その祟りの記事を載せる。
杓子岩(しゃくしいわ)
岡山県の岩。夜に通行人へ「味噌をくれ」と杓子を突き出したという。
物岩(ものいわ)
長野県小谷村の岩。「殺されるぞ」と声を出して人の命を救ったという。