鉄を食う猪のような獣。焼き殺そうとして国を焼き尽くした。

歌川豊国(三代) 「禍」 1852年 / パブリックドメイン 出典
禍とはどんな妖怪か
禍は、災禍を生み出す存在であると言われている伝説の生物です。禍獣、禍母ともいいます。
仏教経典のひとつ『旧雑譬喩経』にある説話に出て来ます。
話は、王の思いつきから始まります。
何一つ災禍の存在しない豊かな国の王が、「わざわい(禍)というものがこの世にはあるらしい、見てみたいのでこれを求めて来い」と家臣たちに命じて探索させました。
探しに行かせます。
すると、市場で「禍母」と呼ばれる禍を生む巨大な猪のような生物が売られており、家臣たちがそれを買って来ます。
買ってきてしまいました。
禍の漢字表記と読み方
読みは「わざわい」または「か」です。
禍獣、禍母(かも、かぼ)ともいいます。
「母」は、禍を生むものという意味です。
そして、この話はことわざになりました。
「自ら悪事を招く」ことを「市(いち)に禍(わざわい)を買う」と称し、ことわざとして使用されています。
市場で禍を買った、という話そのものです。
日本にも紹介されました。
『宝物集』巻第6(「天竺の国王禍を求む并経説譬喩の事」)などで上記の説話が紹介されており、猪のような姿で鉄だけを食べたことが示されています。
禍(わざわい)
もっとも一般的な表記。
禍(か)
音読み。
禍獣(かじゅう)
獣であることを示す形。
禍母(かも)
禍を生むものの意。かぼとも。
禍の姿と特徴
禍の姿は、猪のようです。
巨大な猪のような生物(『旧雑譬喩経』)。
猪のような姿で鉄だけを食べた(『宝物集』)。
そして、食べるものが決まっています。
1日に1升・針をエサとして食べるといいます。
針を一升です。
体も硬いのです。
体が鉄のように硬くなっており、刀で斬ることも突くことも出来ないといいます。
別の姿で語られることもあります。
御伽草子『鶴の草紙』では、牛のように大きく、ツノの生えた狼のような獣で、ツノを振れば空がくもり凄まじい風が巻き起こったといいます。
禍の伝承物語
針を食べて国が滅ぶ
禍を飼うことは、国を傾けました。
禍は1日に1升・針をエサとして食べるので、王は国民に日々針を差し出させてこれを育成しました。
毎日、針です。
国民はこれに疲弊してしまい国から逃散しました。
人がいなくなります。
困った家臣たちは、殺そうとします。
ところが体が鉄のように硬くなっており、刀で斬ることも突くことも出来ませんでした。
刃が通りません。
そこで薪をつみあげ火をかけて焼き殺すことにしました。
しかし、これが最悪でした。
火まみれの禍が城や市街を駆けまわって全てを燃やし尽してしまい、国は滅びてしまいました。
そして、種明かしがあります。
市場で禍を売っていた商人は天の神の化身であったといいます。
難題として持ち込まれる
日本では、別の形でも語られました。
室町時代ころに書かれた御伽草子『鶴の草紙』(つるのそうし、鶴草子)の一系統です。
地頭が難題を出します。
こなせねば美しい女房(鶴)を渡せと迫るのです。
その一つが「わざわい」でした。
牛のように大きく、ツノの生えた狼のような獣で、ツノを振れば空がくもり凄まじい風が巻き起こったといいます。
風を起こします。
そして、思わぬ展開になります。
山の中にある鶴の両親の家にこの獣の「わざわい」が居たため、この難題は打ち破られました。
持っていました。
「わざわい」を持ち込まれた地頭はその乱暴な生態に恐れおののきます。
椿説弓張月と釈迦八相倭文庫
江戸時代の読み物にも、禍は登場します。
曲亭馬琴の読本『椿説弓張月』に登場しています。 琉球の悪僧・曚雲(もううん)がこれを使役します。牛の体をもち、虎のような顔をしています。
牛と虎です。
もう一つ、長い作品があります。
江戸時代から明治にかけて書かれた万亭応賀の合巻『釈迦八相倭文庫』(22編)です。
猪に似た獣で、鉄を食う。満腹なときはおとなしいが空腹となり餓えると暴れ出し、その力は獅子や虎に百倍するといいます。
筋は、経典の話をなぞります。
達婆太子が「わざわい」を館で飼育しますが、エサとして与える鉄がなくなり国中から鉄を納めさせ、それでも足りず暴れ出したので庭に大きな穴を掘り中へ炭を大量におこして焼き殺します。
しかし、館はすべて燃え落ちました。
禍の伝承地域
禍には、訪ねられる伝承地がありません。
仏教経典『旧雑譬喩経』にある説話に出て来るものであり、天竺(インド)の話として語られます。
日本では『宝物集』巻第6(「天竺の国王禍を求む并経説譬喩の事」)で紹介されました。
御伽草子『鶴の草紙』、曲亭馬琴『椿説弓張月』、万亭応賀『釈迦八相倭文庫』にも登場します。
無い場所を、あるように書くことはしません。この欄は空のままにしてあります。
禍の正体と考えられているもの
禍については、次のように整理できます。
一つめは、経典の獣です。仏教経典『旧雑譬喩経』にある説話に出て来る、災禍を生み出す存在です。
二つめは、鉄を食うことです。1日に1升・針をエサとして食べるので、国民は疲弊してしまい国から逃散しました。
三つめは、焼いて国が滅ぶことです。体が鉄のように硬くなっており刀が通らず、火をかけると火まみれの禍が城や市街を駆けまわって全てを燃やし尽してしまい、国は滅びてしまいました。
四つめは、ことわざです。「自ら悪事を招く」ことを「市に禍を買う」と称します。
五つめは、日本での姿です。『鶴の草紙』では牛のように大きく、ツノの生えた狼のような獣、『椿説弓張月』では牛の体をもち、虎のような顔をしています。
この獣は、教訓のために作られた存在です。 求めなければ、災いは来ませんでした。
禍をめぐる妖怪のつながり
禍が登場する作品
禍は、教訓のための獣です。
求めた王が国を滅ぼし、「市に禍を買う」ということわざになりました。
資料は仏教経典と、日本の説話集・読本に分かれます。
禍が登場する古典
宝物集
平康頼。巻第6に「天竺の国王禍を求む并経説譬喩の事」として紹介されます。
御伽草子
『鶴の草紙』の一系統に、地頭の出す難題として「わざわい」が登場します。
禍が登場する小説
椿説弓張月
曲亭馬琴。琉球の悪僧・曚雲がこれを使役します。
釈迦八相倭文庫
万亭応賀の合巻。22編に猪に似た「わざわい」が登場します。
禍が登場する漫画・アニメ
妖怪をまとめて扱う作品
鉄を食う獣として、外来の怪獣と並べて取り上げられます。
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禍についてよくある質問
禍とは何ですか。
災禍を生み出す存在であると言われている伝説の生物、怪獣です。禍獣、禍母ともいいます。仏教経典『旧雑譬喩経』の説話に出て来ます。
何を食べるのですか。
1日に1升・針をエサとして食べるといいます。『宝物集』では猪のような姿で鉄だけを食べたとされます。
どうなったのですか。
体が鉄のように硬く刀が通らず、火をかけて焼き殺そうとしたところ、火まみれの禍が城や市街を駆けまわって全てを燃やし尽してしまい、国は滅びてしまいました。
ことわざになっているのですか。
なっています。 「自ら悪事を招く」ことを「市(いち)に禍(わざわい)を買う」と称します。
禍と併せて覚えたい言葉・用語
旧雑譬喩経(くぞうひゆきょう)
仏教経典。禍の説話を収める。
合巻(ごうかん)
江戸後期の絵入り小説。
升(しょう)
尺貫法の体積の単位。約1.8リットル。