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三重県

鈴鹿御前(すずかごぜん)とはどんな妖怪か|姿と伝承

鈴鹿御前  / スズカゴゼン

人型の妖怪 各地の伝説軍記・物語

鈴鹿山の天女。田村丸と夫婦になり、大嶽丸討伐を助けた。女盗賊としても語られる。

鈴鹿御前の姿を描いた図

歌川国芳 「東海道五十三対 土山」 1845年ごろ / パブリックドメイン 出典

鈴鹿御前とはどんな妖怪か

鈴鹿御前は、鈴鹿山に住んでいたという女神・天女です。

伊勢と近江の境にある山です。鈴鹿姫・鈴鹿大明神・鈴鹿権現・鈴鹿神女とも記されます。

この人物の面白さは、正体が文献によってまったく違うことにあります。

として語られる場合、鈴鹿山の神である鈴鹿姫です。峠の東西と峠上に祀られ、旅人を守りました。

盗賊として語られる場合、立烏帽子という鈴鹿山の盗賊です。平安末の記録に名が見え、鎌倉時代には女盗賊として語られるようになります。

魔物として語られる場合、第六天魔王あるいは第四天魔王の娘です。

室町時代以降は坂上田村麻呂の英雄譚に組み込まれ、田村丸と夫婦になって娘の小りんをもうけ、鬼神大嶽丸の討伐を助けます。

神・盗賊・魔王の娘・武将の妻。これらすべてが同じ名の下にあります。

鈴鹿御前の漢字表記と読み方

読みは「すずかごぜん」です。御前は身分の高い女性への敬称です。

立烏帽子は「たてえぼし」と読みます。もとは烏帽子の形の名で、そこから人の名になりました。

注意したいのは、立烏帽子がもともと女性だったとは限らないことです。平安末の『宝物集』や鎌倉初期の『保元物語』では、立烏帽子は盗賊として記されるだけで、女性とは書かれていません。『弘長元年十二月九日公卿勅使記』でも、立烏帽子は盗賊の名であり、鈴鹿姫はその盗賊が崇敬した社の女神として、別々に現れます。

女盗賊の像は、『古今著聞集』(1254年成立)の「昔こそ鈴香山の女盗人とて言ひ伝へたるに」という回想と結びつくなかで、次第に作られていったと考えられています。

鈴鹿御前(すずかごぜん)

もっとも一般的な表記。

鈴鹿姫(すずかひめ)

神としての呼び方。峠に祀られた。

鈴鹿権現(すずかごんげん)

同じく神としての呼び方。片山神社がこう呼ばれた。

立烏帽子(たてえぼし)

鈴鹿山の盗賊の名。後に鈴鹿御前と同一視された。

鈴鹿御前の姿と特徴

鈴鹿御前の姿は、どの系統で語るかによって変わります。

天女として … 美しく気高い女性。天から降りたものとされ、神通力を持ちます。

女盗賊として … 立烏帽子をかぶった姿。名の由来がそのまま姿になっています。男装の女という設定で語られることが多くあります。

魔王の娘として … 第六天魔王の娘とされる場合、人ではないものの気配をまとった姿で描かれます。

物語での持ち物としては、三明の剣が知られます。大通連・小通連・顕明連という三振りの剣で、大嶽丸との戦いに用いられました。

武器を持ち、自ら戦う女性という点が、日本の伝承では珍しい部分です。多くの物語で女性は助けられる側ですが、鈴鹿御前は田村丸を助ける側に立っています。

鈴鹿御前の伝承物語

  1. 峠の神 ─ 鈴鹿姫のはじまり
  2. 立烏帽子 ─ 盗賊が女になるまで
  3. 田村丸との物語 ─ 英雄譚への組み込み

峠の神 ─ 鈴鹿姫のはじまり

もともとの鈴鹿御前は、峠の神でした。

鈴鹿の地は、斎王の群行が途中に頓宮を置いた土地です。豊かな水に恵まれ、斎宮が禊を行う鈴鹿禊の聖地でした。後には修験の山伏、陰陽師、巫女が祓えを行う神聖な場所となります。

研究者の山田雄司は、斎王の群行が鈴鹿峠を越えるようになると、伝説的な斎王とされた倭姫命を鈴鹿姫とみなして祀るようになったのではないかと推測しています。

峠は、土地と土地の境目です。境目には神が要る。鈴鹿姫は、峠を越える人を守る神として祀られました。

南北朝時代以後、鈴鹿山の麓の坂下では伊勢参宮の盛行を受けて宿場が整備されます。往来が増えるなかで、旅人を守護する存在として鈴鹿姫と立烏帽子が重なっていきました。

立烏帽子 ─ 盗賊が女になるまで

鈴鹿御前のもう一つの顔が、盗賊立烏帽子です。

最古の記録は、平安時代末の治承三年(1179年)ごろに平康頼が記した『宝物集』です。奈良坂のかなつぶてと並べて、鈴鹿山の立烏帽子という盗賊が処刑されたことが記されます。

鎌倉時代初めの『保元物語』では、伊賀国の住人が「祖父が立烏帽子を捕縛して天皇に献上した」と名乗りをあげています。延応元年(1239年)の御成敗式目追加法は、鈴鹿山と大江山の盗賊を地頭が鎮圧するよう伝えます。

ここまでの立烏帽子に、女性という記述はありません。

変わり目は『古今著聞集』(1254年成立)です。強盗を捕らえた検非違使別当が、その正体が二十七、八歳の見目麗しい女官だったことに驚き、「昔こそ鈴香山の女盗人とて言ひ伝へたるに」と回想する場面があります。

時期の近い記録に現れた「鈴鹿山の女盗人」と「立烏帽子」が、次第に同じものとされていきました。

田村丸との物語 ─ 英雄譚への組み込み

盗賊立烏帽子と女神鈴鹿姫が同一視され、坂上田村麻呂の英雄譚に組み込まれるのは、室町時代に入ってからと考えられています。

十四世紀に成立した『太平記』には、源家に伝わる鬼切の剣の由来が語られます。そして室町時代の御伽草子『鈴鹿の草子』『田村の草子』で、鈴鹿御前は田村丸の妻となりました。

物語では、三明の剣を持つ鈴鹿御前が、鬼神大嶽丸の討伐を助けます。二人のあいだには小りんという娘が生まれます。

興味深いのは、鈴鹿御前が先に大嶽丸と関わっている点です。大嶽丸が鈴鹿御前に心を寄せていたため、その心を利用して隙を作る、という筋立てが語られます。

多くの鬼退治の物語で、女性はさらわれる側です。鈴鹿御前は違います。自ら剣を持ち、策を立て、鬼を討つ側に立ちます。

鈴鹿御前の伝承地域

鈴鹿御前の伝承地は、鈴鹿峠とその両側に集まっています。

三重県側の片山神社が鈴鹿権現と呼ばれてきた社です。滋賀県側の田村神社(甲賀市土山町北土山)は坂上田村麻呂を祀る社で、鈴鹿御前の夫とされる人物の社にあたります。

このほか、峠の周辺には鈴鹿御前の墓と伝わる場所が複数ありますが、いずれも確かな裏づけを確かめられませんでした。 確かめられなかったものは挙げていません。

片山神社(かたやまじんじゃ)

鈴鹿権現と呼ばれてきた社

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片山神社の所在地:三重県亀山市関町坂下

鈴鹿峠の三重県側、旧東海道の坂下宿の上手にある社です。古くから鈴鹿権現と呼ばれ、峠を越える人々の信仰を集めました。

鈴鹿御前と結びつけて語られてきた社であり、鈴鹿山の神を祀る場所として、旅人が道中の無事を祈った場所です。

旧東海道の道筋にあたり、峠道を歩く人が通る位置にあります。

旧東海道の坂下宿から鈴鹿峠へ向かう途中にある。

鈴鹿峠(すずかとうげ)

鈴鹿御前が住んだとされる山

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鈴鹿峠の所在地:三重県亀山市関町坂下・滋賀県甲賀市土山町山中

伊勢と近江を分ける峠です。古代には鈴鹿関が置かれ、不破関・愛発関と並ぶ三関のひとつでした。

斎王の群行がここを越え、斎宮が禊を行った聖地でもあります。神を祀る土地であると同時に、盗賊が跳梁した土地でもありました。 鈴鹿御前の二つの顔は、この峠の二面性をそのまま映しています。

旧東海道が通り、峠道を歩くことができます。

滋賀県側に土山宿、三重県側に坂下宿がある。

鈴鹿御前の正体と考えられているもの

鈴鹿御前の正体は、一つに定まっていません。 文献ごとにまったく違うものとして現れます。

一つめは、峠の神です。もとは鈴鹿山の神を鈴鹿姫と称して祀ったものと考えられています。斎王の群行が峠を越えるようになり、伝説的な斎王とされた倭姫命を鈴鹿姫とみなすようになった、という推測が示されています。

二つめは、盗賊立烏帽子です。平安末から鎌倉初期の記録に、鈴鹿山の盗賊として名が見えます。ただしこれらの記録に「女性」と書かれてはいません。

三つめは、女盗賊です。『古今著聞集』の「鈴香山の女盗人」という回想と、盗賊立烏帽子が結びつくなかで作られた像と考えられています。

四つめは、第六天魔王の娘です。御伽草子の系統に現れます。

これらは順番に重なっていったもので、どれか一つが本当というわけではありません。峠という土地に、神と盗賊の両方の記憶があった。 それが一人の名前に集まった結果が鈴鹿御前です。

なお、鈴鹿御前が実在の誰かを指すという証拠はありません。

鈴鹿御前をめぐる妖怪のつながり

鈴鹿御前が登場する作品

鈴鹿御前は、近年のゲーム作品によって知名度が大きく上がった存在です。三明の剣を持ち、自ら戦うという設定が、そのまま作品の役柄になります。

伝承の側では、神・盗賊・魔王の娘という三つの顔をどう扱うかが作品ごとに分かれます。どれを採るかで人物像が変わるため、同じ名前でありながら作品ごとの差が大きい存在です。

鈴鹿御前が登場する古典

田村の草子・鈴鹿の草子

室町時代の御伽草子です。田村丸と夫婦になり、大嶽丸討伐を助ける物語の骨格がここにあります。

田村(能)

鈴鹿の鬼神退治を語る曲です。

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宝物集・保元物語・古今著聞集

立烏帽子と鈴鹿山の女盗人の記録が、それぞれに残ります。

鈴鹿御前が登場するゲーム

フェイト/グランドオーダー

鈴鹿御前が人気の登場人物として実装され、大嶽丸との関係も取り込まれています。

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女神転生シリーズ

日本の伝承上の存在として登場します。

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モンスターストライク

鈴鹿山の物語を下敷きとした登場人物として実装されています。

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鈴鹿御前が登場する小説・漫画

坂上田村麻呂を扱う歴史もの

鈴鹿の鬼退治を描く作品では、必ず登場します。

女武者を主題とする作品

自ら剣をとる女性という点で、しばしば取り上げられます。

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鈴鹿御前についてよくある質問

鈴鹿御前とは何ですか。

鈴鹿山に住んでいたという女神・天女です。鈴鹿姫・鈴鹿権現とも呼ばれ、後には女盗賊立烏帽子や第六天魔王の娘とも同一視されました。

鈴鹿御前は神ですか、盗賊ですか。

両方として語られてきました。もとは峠の神である鈴鹿姫と、盗賊の立烏帽子は別のものでしたが、鎌倉時代以降に重ねられていきました。

立烏帽子は女性だったのですか。

古い記録では女性とは書かれていません。『古今著聞集』の「鈴香山の女盗人」という回想と結びつくなかで、女盗賊という像が作られたと考えられています。

大嶽丸との関係は何ですか。

物語では、大嶽丸が鈴鹿御前に心を寄せています。鈴鹿御前は坂上田村丸と夫婦になり、その心を利用して大嶽丸を討つ手助けをします。

鈴鹿御前に会える場所はありますか。

三重県亀山市の片山神社が鈴鹿権現と呼ばれてきた社です。鈴鹿峠そのものが伝承の中心地です。

鈴鹿御前と併せて覚えたい言葉・用語

立烏帽子(たてえぼし)

鈴鹿山の盗賊の名。後に鈴鹿御前と同一視された。

三明の剣(さんみょうのけん)

鈴鹿御前が持つとされる三振りの剣。大通連・小通連・顕明連。

斎王(さいおう)

伊勢神宮に仕えた未婚の皇女。群行の道が鈴鹿峠を越えた。

第六天魔王(だいろくてんまおう)

仏道の妨げをするとされる魔王。鈴鹿御前をその娘とする伝えがある。