死体に別の何かが取り憑き、立ち上がって飲み食いする。
死人憑とはどんな妖怪か
死人憑は、死体に何かが取り憑く怪異です。
人間の死体に別の何者かの霊が取り憑くとされます。
郷土研究家・荻原直正の著書『因伯伝説集』に「死人に憑者」の題で記載されています。
話の舞台は、鳥取です。
因幡国岩井郡(現・鳥取県岩美郡)のとある村でのことです。
始まりは、ふつうの死です。
百姓が長い病気の末に死にました。
そして、通夜の支度をしていたときです。
家人が僧の来るのを待っていると、死んだはずの百姓が突然に立ち上がりました。
立ちました。
死人憑の漢字表記と読み方
読みは「しびとつき」です。
「死人憑き」「死人つき」とも書きます。
「憑き」は、取り憑くことです。
この名は、取り憑かれる側を指しています。
取り憑くもののほうには、名がありません。
狐憑きは「狐」が、犬神憑きは「犬神」が名になっています。
死人憑は、憑かれた死体そのものの名です。
『因伯伝説集』の題も「死人に憑者」であり、憑いたものが何かは書かれていません。
死人憑(しびとつき)
もっとも一般的な表記。
死人憑き(しびとつき)
送り仮名を入れた形。
死人つき(しびとつき)
仮名で書いた形。
死人に憑者(しびとにつくもの)
『因伯伝説集』での題。
死人憑の姿と特徴
死人憑の姿は、死んだ人そのものです。
新しく生えるものはありません。
変わるのは、動きです。
死んだはずの百姓が突然に立ち上がった。
大変力が強く男数人を引きずりまわすほど。
物を食べたり酒を飲んだりし、しかも1日中眠ることがなかった。
立ち、暴れ、飲み食いします。
そして、体は死んだままです。
数日が過ぎると、季節が夏であるために肉体が腐敗して悪臭を放ち、目や口からは腐汁が流れ始めたといいます。
腐りながら動きます。
死人憑の伝承物語
僧を待つ間に立ち上がった
話は、通夜の場から始まります。
因幡国岩井郡(現・鳥取県岩美郡)のとある村で、百姓が長い病気の末に死にました。
長い病気の末です。
家人が僧の来るのを待っていると、死んだはずの百姓が突然に立ち上がりました。
僧が来る前でした。
押さえようとしても、無理でした。
家人たちが慌てて取り押さえようとするが、大変力が強く男数人を引きずりまわすほどであったといいます。
男数人を引きずります。
そして、生き返ったわけではありません。
物を食べたり酒を飲んだりし、しかも1日中眠ることがなかったといいます。
眠りません。
祈祷が効かなかった
家人は、手を尽くしました。
まず、日が経ちます。
数日が過ぎると、季節が夏であるために肉体が腐敗して悪臭を放ち、目や口からは腐汁が流れ始めました。
夏でした。
そこで、判断がつきました。
家人たちは死人に何者かが取り憑いたに違いないと思って祈祷にすがりました。
祈祷です。
しかし、まったく効果が無かったといいます。
効きませんでした。
そこで、家を明け渡します。
手段を失った家人は、百姓を家へ閉じ込め、自分たちは他の家へ移りました。
閉じ込めて、離れました。
次の日には倒れた
終わりは、あっけないものでした。
百姓は飯や酒を求めて騒ぎ立て、家の中で暴れまわりました。
飯と酒を求めています。
そして、翌日です。
次の日には倒れて動かなくなったといいます。
動かなくなりました。
理由は、わかりません。
憑き物が去ったのだろうと、家人たちは慌てて葬儀を済ませたといいます。
慌てて、です。
もう一度立ち上がる前に、葬りました。
取り憑いたものの正体は、最後まで書かれていません。
この話は、正体を明かさずに終わります。
死人憑の伝承地域
死人憑は、因幡国岩井郡(現・鳥取県岩美郡)のとある村の話です。
郷土研究家・荻原直正の著書『因伯伝説集』(1951年)に「死人に憑者」の題で記載されています。
同じ話は、上野忠親『雪窓夜話抄』巻上「岩井郡にて死人駈走りし事」にも見えます。
村の名は記されておらず、場所を確かめられません。この欄は空のままにしてあります。
死人憑の正体と考えられているもの
死人憑については、次のように整理できます。
一つめは、取り憑かれる側の名です。人間の死体に別の何者かの霊が取り憑くという怪異であり、取り憑くもののほうには名がありません。
二つめは、力です。大変力が強く男数人を引きずりまわすほどであったといいます。
三つめは、飲み食いです。物を食べたり酒を飲んだりし、しかも1日中眠ることがなかったといいます。
四つめは、腐敗です。季節が夏であるために肉体が腐敗して悪臭を放ち、目や口からは腐汁が流れ始めたとあり、生き返ったわけではないことがはっきり書かれています。
五つめは、終わり方です。祈祷はまったく効果が無く、次の日には倒れて動かなくなったので、憑き物が去ったのだろうと、家人たちは慌てて葬儀を済ませたといいます。
この話は、正体を書きません。 動いた事実だけを、順に並べています。
死人憑をめぐる妖怪のつながり
死人憑が登場する作品
死人憑は、正体を書かない話です。
死体が立ち、飲み食いし、腐り、翌日に倒れます。それだけが記されています。
資料は因幡の郷土資料と、江戸の夜話に分かれます。
死人憑が登場する古典
雪窓夜話抄
上野忠親。巻上に「岩井郡にて死人駈走りし事」があります。
死人憑が登場する研究
荻原直正編『因伯伝説集』
1951年。「死人に憑者」の題で載せています。
水木しげる『図説 日本妖怪大全』
1984年。死人憑きとして紹介しています。
死人憑が登場する漫画・アニメ
憑き物を扱う作品
死体が動く話として、狐憑きや犬神憑きと並べて取り上げられます。
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死人憑についてよくある質問
死人憑とは何ですか。
人間の死体に別の何者かの霊が取り憑くという怪異で、郷土研究家・荻原直正の著書『因伯伝説集』に「死人に憑者」の題で記載されています。
どんなことが起きたのですか。
家人が僧の来るのを待っていると、死んだはずの百姓が突然に立ち上がり、大変力が強く男数人を引きずりまわすほどでした。
生き返ったのですか。
数日が過ぎると、季節が夏であるために肉体が腐敗して悪臭を放ち、目や口からは腐汁が流れ始めたとあり、体は死んだままでした。
どうやって終わったのですか。
次の日には倒れて動かなくなったので、憑き物が去ったのだろうと、家人たちは慌てて葬儀を済ませたといいます。
死人憑と併せて覚えたい言葉・用語
因幡国(いなばのくに)
現在の鳥取県東部。
祈祷(きとう)
神仏に祈って災いを除こうとすること。
腐汁(ふじゅう)
腐った体から出る汁。