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島根県

小豆洗い(あずきあらい)とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品

小豆洗い  / アズキアライ

水の妖怪 各地の伝説絵本百物語

真夜中の炭小屋に近づいて小豆を磨ぐ音を立てる怪。出て見ると何もいない。

小豆洗いの姿を描いた図

竹原春泉 「絵本百物語 小豆あらひ」 1841年 / パブリックドメイン 出典

小豆洗いとはどんな妖怪か

小豆洗いはひとことで言えば音だけの怪です。

真夜中、炭焼き小屋のそばでサクサクと小豆を磨ぐ音がします。出て見ても、そこには何もいません。

同じ山に、伐木坊という怪もいました。夜半に斧の音がして、木の倒れる響きがする。翌朝その場所を見に行くと、何の痕も残っていません。

どちらも、炭焼き小屋に泊まった人だけが聴きました。山で寝起きする者のところへ、音のほうから近づいてきます。

記録に残るのは福島の山ですが、同じ音の怪は各地にあり、柳田国男は東京の深夜の馬鹿囃子と並べて論じています。

小豆洗いの漢字表記と読み方

読みは「あずきあらい」です。「小豆磨」「小豆とぎ」とも書きます。

音の写し方が、そのまま名前になりました。『白河風土記』は、その音を「サクサク」と記しています。

小豆を洗う音か、磨ぐ音か。どちらにしても、聞こえるのは水と豆の音です。

小豆洗い(あずきあらい)

広く使われる呼び方。

小豆磨(あずきとぎ)

『白河風土記』での書き方。

伐木坊(ばつぼくぼう)

同じ山で語られた、斧の音の怪。

小豆洗いの姿と特徴

姿はありません。

『白河風土記』は、この怪を鬼魅の怪、つまり音の怪異として記します。婆の姿で川端にいるという語り口は、後の世に付いたものです。

炭焼き小屋に泊まった人だけが、これを聴きました。

小豆洗いの伝承記録

  1. 福島の炭小屋で、真夜中に音がする
  2. 小屋に近づいて、サクサクと磨ぐ
  3. 幻覚でも、大勢が同じ音を聴く
  4. 音が続くと、その谷へ人が入らなくなる

福島の炭小屋で、真夜中に音がする

『白河風土記』巻四に、鶴生(いまの福島県西白河郡西郷村大字)の奥の高助という山のことが記されています。

その山で炭竈に泊まる者は、ときに怪しい音を聴きました。

其怪を伐木坊又は小豆磨と謂ふ。伐木坊は夜半に斧伐の声ありて顛木の響を為す。明くる日其処を見るに何の痕も無し。

斧の音、木の倒れる響き。翌朝、痕は一つもありません。

炭を焼く仕事は、山に何日も泊まり込みます。眠る場所のすぐ外で、誰かが木を伐っている音が続くわけです。

小屋に近づいて、サクサクと磨ぐ

もう一方が小豆磨です。同じ記録が、その様子をこう書きます。

小豆磨は炭小屋に近づきて、中夜に小豆を磨する音を為す。其声サク/\と云ふ。出でて見るに物無し、よりて名づくといへり。

注目したいのは「小屋に近づきて」という一語です。

音は遠くで鳴るのではありません。寝ている人のすぐそばまで来ます。 そして出てみると、何もいない。

「よりて名づく」とあるとおり、名前は、その空振りから付きました。

小豆を洗う音でも、磨ぐ音でもよかったのでしょう。確かなのは、サクサクという音を誰かが聴いたことだけです。

幻覚でも、大勢が同じ音を聴く

柳田国男は、この種の音をどう考えたか。幻覚は大勢で聴いても幻覚である、と書いています。

ただし、と続けます。同じ音をともに聴いたと思っても、甲の暗示が乙を誘い、丙の感じを確かにしたのかもしれない、と。

東京の深夜の馬鹿囃子、広島のバタバタの怪、鉄道が通ったばかりの土地で狐狸が汽笛の音を真似るという話。

強い印象が、時を置いてまぼろしとして戻ってくる例は、山の外にも数限りなくあります。

だから柳田は、こうした音を山にいる見えない人の神通に結びつけるのは、むしろ聴く側の想像の力ではないかと書きました。

音が続くと、その谷へ人が入らなくなる

こうした出来事が何度も繰り返されると、どうなるか。

山が荒れるといって人が不安を感じ始めます。

そしてついに、その谷を「よくないところ」の一つに数えて、避けて入らないようになりました。

炭を焼く場所が一つ減り、木を伐る場所が一つ減ります。音が、土地の使い方を変えました。

柳田はこう書いています。音があまり毎度繰り返されると、山が荒れると称して人が不安を感じ始め、ついにはその谷を避けて入らないようになる、と。

小豆を磨ぐ音は、人を襲いません。それでも音が一つ増えるたびに、人の入れる山が一つ減っていきました。

小豆洗いの伝承地域

『白河風土記』が記す小豆磨の山は、福島県西白河郡西郷村大字鶴生の奥にある高助という所です。同じ音の怪は各地にあり、柳田国男は東京の馬鹿囃子や広島のバタバタの怪と並べて論じています。

小豆洗いの正体と考えられているもの

小豆洗いは、山の音を名前にしたものです。

姿がないので、聴いた者は音の中身で呼びました。斧なら伐木坊、小豆ならば小豆磨。

柳田国男は、この記録を後の研究者のために残しておく必要があると書き添えました。同じ巻には、山道で石を投げつけられる天狗の記録も並べられています。

そして名前が付くと、その谷は入らないほうがよい場所になります。怪の役目は、脅かすことではなく、線を引くことでした。

地域によっては、この正体を婆として小豆婆と呼びました。群馬では「小豆磨ぎやしょか、人取って食いやしょか」と歌ったといいます。

小豆洗いをめぐる妖怪のつながり

小豆洗いが登場する作品

小豆洗いは、音だけの妖怪です。

「小豆とごうか、人取って食おうか」という囃し文句が各地に伝わります。 姿を見たという話は少なく、川辺で小豆をとぐ音そのものが怪異にあたります。

石燕は、その音へ姿を与えました。秋田のくねゆすりが「小豆とぎのすぐそばにいる」と記録されるように、音の怪異どうしは近くで語られます。

小豆洗いが登場する妖怪画

画図百鬼夜行

鳥山石燕の妖怪画集。川辺で小豆をとぐ姿を描き、「小豆とぎ」の名を広めました。

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小豆洗いが登場する漫画・アニメ

ゲゲゲの鬼太郎

小豆を洗う音を立てる妖怪として登場します。姿より音で知られるという特徴が受け継がれています。

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小豆洗いについてよくある質問

小豆洗いとはどんな妖怪ですか。

真夜中に小豆を磨ぐ音を立てる怪です。『白河風土記』は炭小屋に近づいてサクサクと音を立て、出て見ると何もいないと記しています。

小豆洗いの姿は伝わっていますか。

古い記録では音の怪異として扱われ、姿は記されていません。『白河風土記』は「鬼魅の怪」と書き、聴こえた音から名付けたと説明しています。

伐木坊とは何ですか。

同じ山で語られたもう一つの音の怪です。夜半に斧の音と木の倒れる響きがして、翌朝その場所を見ても痕が一つもないとされます。

柳田国男はこの音をどう考えましたか。

幻覚は大勢で聴いても幻覚だとしたうえで、一人の暗示が他の人を誘った可能性を挙げています。強い印象が後にまぼろしとして戻る例は山の外にも多いとしました。

小豆洗いと併せて覚えたい言葉・用語

炭竈(すみがま)

木を焼いて炭を作る窯。山中に小屋を建てて泊まり込む。小豆洗いを聴いたのはここに泊まった人だった。

鬼魅(きみ)

姿の定まらない怪しいもの。『白河風土記』は小豆磨と伐木坊をこう呼んでいる。

馬鹿囃子(ばかばやし)

東京で深夜に聴こえるとされた囃子の音。柳田国男は小豆洗いと同じ種類の現象として並べた。

小豆洗いの参考資料

この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。

  1. 青空文庫 柳田国男『山の人生』(一九二六年)所引『白河風土記』巻四