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全国に伝わるもの

大天狗(だいてんぐ)とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品

大天狗  / ダイテング

天狗山の妖怪 各地の伝説能・浄瑠璃

山の天狗のうち、とりわけ力と位が高いものを指す呼び名。

大天狗の姿を描いた図

歌川国芳 「牛若丸僧正坊に随ひ武芸を稽古す図」 1845年ごろ / パブリックドメイン 出典

大天狗とはどんな妖怪か

天狗は、天狗の頭領を指す呼び名です。

赤い顔に高い鼻、白い髭、山伏の装束、手には羽団扇。鞍馬山の僧正坊、愛宕山の太郎坊、比良山の次郎坊というふうに、名高い山にはそれぞれ名を持つ大天狗がいます。

その下に、嘴と翼を持つ烏天狗木の葉天狗が家来として連なります。大天狗は一体の妖怪の名ではなく、位の名です。

もっとも、この高い鼻の顔は後から生まれたものです。柳田国男は、鼻高の天狗像が絵師の想像から広まった可能性を指摘しています。

例えば天狗とは一体どんなものかと聞いてみるとき、今日誰しも答えるのは鼻のむやみに高いことであるが、これとても狩野古方眼が始めて夢想したという説もあって、中古には緋の衣に羽団扇などを持った鼻高様は想像することができなかったのである。

(中古=平安から鎌倉のころ。狩野古方眼は室町の絵師)

大天狗の漢字表記と読み方

読みは「だいてんぐ」です。「大」は体の大きさより、位の高さを表します。

固有名の多くに「」が付きます。僧の住まいを指す字で、天狗が山伏や僧の姿で語られてきたことの名残です。僧正坊、太郎坊、次郎坊、三郎、伯耆坊、豊前坊、相模坊。

これらをまとめた「日本八天狗」という名簿がありますが、顔ぶれは資料ごとに入れ替わります。八という数だけが先にあって、誰を入れるかは土地の力関係で動きました。

大天狗(だいてんぐ)

高位の天狗を指す一般的な表記。

大てんぐ(だいてんぐ)

天狗を平仮名で書く表記。

僧正坊(そうじょうぼう)

鞍馬山の大天狗として知られる固有名。

大天狗の姿と特徴

大天狗の姿は、赤い顔と高い鼻を持つ山伏です。

頭に兜巾(ときん)という小さな黒い帽子を載せ、山伏の装束をまとい、手に羽団扇を持ちます。背に翼を描く絵もあります。羽団扇をあおげば風が起こり、人を空へ飛ばします。

古い天狗は鳥の姿でした。中世の絵巻に描かれるのは、鳶に近い体つきの怪異です。高い鼻の人型が定着するのは近世に入ってからで、猿田彦の面の影響を受けたとする説があります。

家来の烏天狗は、主人と体のつくりが違います。柳田国男はこの不揃いを面白がりました。

そのうえに何々坊の輩下という天狗だけは、口が嘴になり鼻は穴だけがその左右についている。

主人は人の顔、家来は鳥の顔。同じ一族が、上と下でまったく別の生きものになっています。

大天狗の伝承物語

  1. 鳥から山伏へ ─ 顔が入れ替わる
  2. 八天狗の名簿 ─ 山ごとに主がいる
  3. 牛若丸に兵法を授ける ─ さらう側から教える側へ

鳥から山伏へ ─ 顔が入れ替わる

天狗の顔は、三度変わりました。

はじめは空の異変です。中国で「天狗」は天を走る犬、すなわち流れ星を指しました。日本でも、怪しい音と光として語られます。

次にになります。仏教説話のなかで、天狗は僧を惑わせ、修行者に取り憑くものとして現れました。鳶のような翼で飛び、僧を空へさらって遠国に捨てます。

そして中世から近世にかけて、山伏の姿が前に出ます。山で厳しい修行を積む者の力と、その力を誤って使う怖さが、そのまま天狗に重ねられました。

空の怪異が、鳥になり、人になった。 大天狗の高い鼻は、この長い旅の終点に置かれた顔です。

八天狗の名簿 ─ 山ごとに主がいる

大天狗には、山ごとに名があります。

鞍馬山 僧正坊(京都)── 牛若丸に兵法を教えたとされる。
愛宕山 太郎坊(京都)── 筆頭に数えられることが多い。
比良山 次郎坊(滋賀)
飯縄山 三郎(長野)── 飯縄権現と結びつく。
大山 伯耆坊(神奈川)
英彦山 豊前坊(福岡)
白峰山 相模坊(香川)── 崇徳上皇の霊を守るとされる。

これらをまとめて八天狗と呼びます。ただし顔ぶれは書物ごとに入れ替わり、序列も一定しません。後世の編者が各地の名を集め、一つの組織であるかのように並べたのが実際に近いところです。

名を持つ山は、いずれも修験道の霊山です。大天狗の名簿は、そのまま山伏の道場の一覧でもあります。

牛若丸に兵法を授ける ─ さらう側から教える側へ

大天狗は人をさらいます。道に迷わせ、病を起こし、僧を空へ運んで置き去りにする。

ところが源義経の物語で、役が入れ替わりました。鞍馬寺に預けられた牛若丸が、夜ごと山に入り、大天狗僧正坊から剣術と兵法を授かる。さらう相手が、教える師になったのです。

この一話は大きく効きました。山で修行する人に力を与えるものとして、大天狗は祀られる側へ移ります。高尾山、秋葉山、飯縄山では、今も信仰の対象です。

さらう力と授ける力は、もともと同じ一つの力です。人を試し、慢心を戒め、山の決まりを破る者を罰する。大きな力を持つからこそ、味方にも災いにもなります。

大天狗の伝承地域

大天狗は位の名なので、住所が一つに定まりません。会いに行くなら、名を持つ山のほうへ向かうことになります。

鞍馬山(京都)は僧正坊の山で、僧正ガ谷という杉の谷が今も残ります。愛宕山(京都)は太郎坊の山であり、山頂の愛宕神社は火伏せの神として全国に信仰を広げました。高尾山(東京)では、参道と山中で大天狗・烏天狗の像を見ることができます。

個々の名は鞍馬天狗の項で扱います。ここでは位の名としての大天狗を置くため、場所欄は空にしてあります。

大天狗の正体と考えられているもの

大天狗の正体は、三つの層が重なったものです。

一つめは、山そのものの危険です。急な突風、落石、道迷い、変わりやすい天候。原因の見えない事故を、山の主のしわざとして説明しました。

二つめは、山伏への畏れです。里を離れて修行し、薬や祈祷の知識と山を歩く体力を持つ者は、村から見れば異質でした。天狗が山伏の装束をまとうのは、この重なりの結果です。

三つめは、慢心です。法力を得ながら驕った僧が落ちる先を天狗道と呼びました。高い鼻が自慢の比喩になったのも、ここから来ています。

山の力、修行者への尊敬と不安、人の慢心。 この三つが一つの姿に集まったものが大天狗です。

大天狗をめぐる妖怪のつながり

大天狗が登場する作品

作品のなかで、大天狗はしばしば一つの種族名として扱われます。強さの順位が付き、最強の一体が決まる。伝承の側では、順位は山の格に従って動きました。

古い鳥の姿と、高い鼻の山伏姿は、同じ時代に並んで描かれています。片方がもう片方に進化したわけではなく、絵師と土地によって選ばれる顔が違いました。

「大天狗」という短い名の中に、山の地域性、修行者の像、絵画の変化、後世の階級表が折り重なっています。 能力の一覧より、山ごとの違いを見るほうが、この存在に近づけます。

大天狗が登場する能・物語

鞍馬天狗

鞍馬山の大天狗が牛若丸を導く物語で、芸能でも広く知られます。

天狗を扱う説話集

修行者を惑わせるもの、慢心した者の姿として多様な天狗が現れます。

大天狗が登場する漫画・ゲーム

妖怪を扱う漫画・アニメ

山の長老、集団の首領、主人公の師などの役で登場します。

和風のゲーム

羽団扇で風を操り、空を飛ぶ強敵として表現されます。

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大天狗についてよくある質問

大天狗と天狗は同じですか。

天狗のうち、高い位と大きな力を持つものを指す呼び名です。鞍馬山の僧正坊、愛宕山の太郎坊のように山ごとに固有名を持ち、その下に烏天狗や木の葉天狗が家来として連なります。

大天狗は何体いますか。

決まっていません。八天狗などの一覧はありますが、資料によって名前や順番が異なります。

なぜ鼻が高いのですか。

高い鼻の人型は後世に定着した図像です。古い天狗には鳥に近い姿もありました。

どの山にいますか。

鞍馬山、愛宕山など多くの山に固有名を持つ大天狗が語られます。一つの伝承地には決まりません。

大天狗と併せて覚えたい言葉・用語

天狗(てんぐ)

山に住み、鳥や山伏の姿で語られる妖怪の総称。

烏天狗(からすてんぐ)

鳥のくちばしと翼を持つ姿で描かれる天狗。

羽団扇(はうちわ)

大天狗が手にし、風を起こす道具として描かれる団扇。

大天狗の参考資料

この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。

  1. 青空文庫 柳田国男『山の人生』