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青森県

水虎様とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品・伝承地域

水虎様  / すいこさま

水の妖怪神になった妖怪 各地の伝説

津軽で河童を神として祀ったもの。水難を鎮めるため、寺が河童に大明神の位を与えた。

水虎様の姿を描いた図

C2revenge 「天皇山の社(青森県つがる市)」 2023年 / CC0 出典

水虎様とはどんな妖怪か

水虎様は、神になった河童です。

青森県の西北津軽。岩木川の流域に、河童の姿をした像を納めた堂や祠が並びます。

始まりは、水の事故でした。青森県の観光情報の説明はこうです。

実際に起こった水の事故をきっかけに、水難よけを祈願するために広まったもの

事故は河童のしわざとされました。ふつうなら退治します。この土地は、逆をやりました。

つがる市の実相寺が、その河童に「大明神」の位を与えて祀ったのです。

この水虎様をまつり始めたのは、つがる市の実相寺さんです。

祟るものを、格上げして鎮める。 西北津軽を中心に、いまもおよそ80か所の寺社に祀られています。

水虎様の漢字表記と読み方

すいこさま」と読みます。

水虎」は、もともと中国の書物に出てくる水の怪異の名です。江戸時代の日本では、河童を漢語で書くときにこの字が使われました。

津軽では、その漢語の名に「様」を付けて神としました。 呼び名が中国由来、姿が河童、扱いが神。三つが重なっています。

青森で河童そのものを指す方言は「メドツ」です。水虎様の像を見ると、メドツが座っている と言うほうが実態に近いかもしれません。

書物の水虎と、津軽の水虎様は別のものとして読む必要があります。前者は中国の記録、後者は津軽の信仰です。

水虎様(すいこさま)

もっとも一般的な表記。津軽での呼び方。

水虎大明神(すいこだいみょうじん)

神としての正式な呼び方。

スイコサマ(すいこさま)

片仮名で書く場合。

メドツ(めどつ)

青森で河童を指す方言。水虎様の元の姿にあたる。

水虎様の姿と特徴

水虎様の姿は、二種類あります。分ける線は岩木川です。

西側 … 河童の形。皿があり、嘴があり、甲羅を負う像が多く見られます。
東側亀に乗った女神の形。

青森県の観光情報はこう説明しています。

岩木川を境に、西側には河童の形、東側にはカメに乗った女神様の形が多く見られます

川一本を挟んで、同じ神の姿が入れ替わります。

女神の形は、妙見信仰との重なりが指摘されてきました。亀に乗る姿は、北辰を祀る妙見菩薩の像に通じます。

堂の中に納められているため、外から見えないことがあります。多くは集落が守る小さな堂です。

水虎様の伝承物語

  1. 河童に大明神の位を与える
  2. 岩木川を挟んで姿が変わる
  3. 書物の水虎とは別のもの
  4. 七月二十日の宵宮 ─ いまも続く

河童に大明神の位を与える

水虎様の始まりは、一つの寺の判断でした。

つがる市木造の実相寺。岩木川で水の事故が続き、祈祷したところ河童のしわざと出ます。

ここで住職が取った手が変わっていました。退治しません。

河童に「水虎大明神」の神格を与え、男女の河童像を作って祀ったのです。

祟るものを、祀る側へ引き上げる。 相手を消すのではなく、位を与えて味方につける 手です。

この形は、日本の信仰に広くあります。菅原道真も、祟る霊を天満大自在天神として祀りました。水虎様は、それを河童でやったもの にあたります。

明治の初めごろのこととされます。妖怪が神になる過程が、記録の残る近さで起きています。

岩木川を挟んで姿が変わる

水虎様には、二つの顔があります。

西は河童、東は女神。 岩木川がその境です。

同じ名で祀られ、同じ水難除けを願われながら、像の姿だけが川を挟んで入れ替わります。

女神の形は、亀に乗っています。この姿は妙見の像に通じるもので、北を司る星の信仰と重なると指摘されてきました。

なぜ分かれたのか。 はっきりしません。

考えられるのは、祀り始めた寺社の系統の違いです。実相寺の系統は河童の形、別の系統は妙見の形を採った。 そう見ると、川が信仰の境になっている理由も説明が付きます。

80か所という数も見落とせません。 一つの大社に集まらず、集落ごとに小さな堂を持つ 形で広がりました。

書物の水虎とは別のもの

「水虎」という名は、中国の書物から来ています。

南方熊楠が『善庵随筆』を引いて、水で人を殺すものを並べています。

水中で人を捕り殺すもの一は河童、一は鼈、一は水蛇、江戸近処では中川に多くおり、水面下一尺ばかりを此岸より彼岸へ往く疾さ箭のごとし。

(鼈=すっぽん。箭=矢)

河童とすっぽんと水蛇が同じ列に並んでいます。 江戸の知識人は、この「水虎」の字を河童に当てました。

石燕が『今昔画図続百鬼』に描いた水虎も、中国の『和漢三才図会』を下敷きにしたもので、描かれているのは中国の水虎 です。

津軽の水虎様は、そこから枝分かれしています。

字は書物から、姿は土地の河童から、扱いは神から。三つの出どころが一つの名に合流しました。

七月二十日の宵宮 ─ いまも続く

水虎様の信仰は、いまも生きています

つがる市木造千年地区では、毎年7月20日に宵宮が開かれます。

毎年7月20日、つがる市木造千年地区では、ある神様をおまつりする宵宮が開催されています。

水の事故がいちばん多い時期です。子どもが川に入る季節の直前に、祭りが置かれています。

旧暦の五月・六月には、その年の初なりの胡瓜などを川へ流す習わしも伝わります。河童の好物を先に渡しておく、という考え方です。

80か所の堂は、ほとんどが集落のものです。 大きな社殿はありません。道端の小さな堂に、河童の像が座っています。

筏師がシコブチを祀ったのと同じで、水と関わる暮らしが、この神を必要としました。

水虎様の伝承地域

水虎様は、西北津軽を中心におよそ80か所の寺社に祀られています。

元祖とされるのが、つがる市木造の実相寺です。

多くは集落が守る小さな堂で、像が堂の中に納められて外から見えないこともあります。 訪ねる場合は、それぞれの寺社へ確かめてください。

毎年7月20日、つがる市木造千年地区で宵宮が開かれます。

実相寺(じっそうじ)

水虎様信仰の元祖とされる寺

地図で開く

実相寺の所在地:青森県つがる市木造千代町5-1

水虎様を最初に祀ったとされる寺です。岩木川の水難を鎮めるため、河童に水虎大明神の位を与え、男女の河童像を祀りました。

つがる市木造の市街にあり、ここから西北津軽一帯へ信仰が広がりました。

JR五能線 木造駅から徒歩圏。堂の拝観は寺へ確認のこと。

水虎様の正体と考えられているもの

水虎様の正体は、和解の形です。

一つめは、水難の説明。岩木川の事故に原因を与える言葉として、河童が選ばれました。シコブチが安曇川でやったのと同じことです。

二つめは、対処の選び方。ここが津軽の変わっているところです。退治せず、祀りました。

安曇川では、シコブチという別の神が河童を叱ります。津軽では、河童そのものを神にしました。

三つめは、記録の近さ。明治の初めごろの出来事とされます。妖怪が神になる過程が、これほど近い時代に残っている例は多くありません。

祟るものに位を与えて味方につける。この手は、菅原道真にも平将門にも使われてきました。

水虎様は、それを名もない河童に対してやったものです。相手が誰であっても、同じ手が効くと考えられていた ということになります。

水虎様をめぐる妖怪のつながり

水虎様が登場する作品

水虎様は、書物の水虎と、津軽の祠が別物であることを押さえて読む必要があります。

『和漢三才図会』の水虎は中国の記録から来た虎のような水獣で、津軽の堂に納まる像は河童そのものの姿です。 漢語の名だけが借りられました。

資料は妖怪の事典に載りますが、中心は青森の寺社にある実物の像です。八十か所ほどが現に残っています。

水虎様が登場する古典・記録

和漢三才図会

寺島良安、1712年。中国の書物にある「水虎」を立項します。津軽の水虎様とは名が重なるだけで、姿も由来も別のものです。

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水虎様が登場する事典

妖怪事典

村上健司編著。津軽の水虎様を河童の項の周辺に置き、祀られる形として扱っています。

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日本妖怪大事典

水木しげる画・村上健司編著。河童の地方名と信仰を並べて引けます。

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水虎様が登場する漫画・アニメ

ゲゲゲの鬼太郎

水木しげるの代表作。河童が繰り返し登場し、いま多くの人が思い描く姿を決めました。

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水虎様についてよくある質問

水虎様とは何ですか。

青森県の西北津軽で祀られる水の神です。岩木川の水難を鎮めるため、つがる市の実相寺が河童に「水虎大明神」の位を与えて祀ったのが始まりとされます。

なぜ河童を神にしたのですか。

祟るものを退治せず、位を与えて鎮めるという考え方です。菅原道真を天満大自在天神として祀ったのと同じ形を、河童に対して行ったものにあたります。

水虎様はどんな姿ですか。

岩木川を境に二種類あります。西側は河童の形、東側は亀に乗った女神の形が多く見られます。女神の形は妙見信仰との重なりが指摘されています。

書物に出てくる「水虎」と同じですか。

別のものです。書物の水虎は中国の記録に出る水の怪異で、石燕の絵も『和漢三才図会』を下敷きにしています。津軽の水虎様は、その字を借りた土地の信仰です。

水虎様はどこで見られますか。

西北津軽を中心におよそ80か所の寺社に祀られています。元祖とされるのは青森県つがる市木造千代町5-1の実相寺です。毎年7月20日には木造千年地区で宵宮が開かれます。

水虎様と併せて覚えたい言葉・用語

メドツ(めどつ)

青森で河童を指す方言。

大明神(だいみょうじん)

神に与えられる位。実相寺は河童にこれを与えた。

妙見(みょうけん)

北辰を祀る信仰。亀に乗る女神形の水虎様との重なりが指摘される。

宵宮(よいみや)

祭りの前夜に行う神事。木造千年地区では7月20日。

水虎様の参考資料

この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。

  1. 青森県観光情報サイト「津軽不思議発見! 水虎様」
  2. 青空文庫 南方熊楠『十二支考』「蛇に関する民俗と伝説」