人間の顔をした犬。1989年から1990年にかけて全国で流行した。
人面犬とはどんな妖怪か
人面犬は、人間の顔をした犬の怪異です。
この噂は、1989年から1990年にかけて全国で流行し、報道でも盛んに取り上げられました。
目撃例は、大きく二つに分かれます。
一つめ … 深夜の高速道路で、車に時速百キロメートルのスピードで追いすがる。追い抜かれた車は事故を起こす。
二つめ … 繁華街でごみ箱を漁っており、店員や通行人が声をかけると「ほっといてくれ」と言い返して立ち去る。
ほかにも「勝手だろ」「うるせえ」「なんだ、人間か」といった捨て台詞を言った、六メートル以上跳んだ、といった話が流布しました。
非常に足が速く、人面犬に噛まれた人間は人面犬になってしまうという噂も立ちました。
顔は中年男性だともいわれます。
1989年ごろに広まった噂です。
人面犬の漢字表記と読み方
読みは「じんめんけん」です。人の顔をした犬という、そのままの名前です。
1989年から1990年にかけての流行の時期には、人面魚という別の怪異も話題になりました。人の顔に見える模様を持つ鯉のことで、こちらは実在の魚です。
「人面」という語が、この時期に広く使われました。
派生した話として、「どこかに犬と顔を交換した(させられた)犬面人がいる」と締めくくられるものもあります。
人の顔をした犬がいるなら、犬の顔をした人もいるはずだ。 噂は、こうして自分で自分を広げていきます。
人面犬(じんめんけん)
もっとも一般的な表記。
犬面人(けんめんじん)
「どこかに犬と顔を交換した犬面人がいる」と締めくくられる派生がある。
人面魚(じんめんぎょ)
同時期に話題になった別の怪異。人の顔に見える鯉。
人面犬の姿と特徴
人面犬の姿は、名前がすべてです。
体 … 犬。
顔 … 人間。
それだけです。ただし、細かい特徴が語られました。
顔は中年男性 … もっとも多く語られる特徴です。
非常に足が速い … 深夜の高速道路で、時速百キロで走る車に追いすがるとされます。
跳躍力 … 六メートル以上跳んだという話があります。
話す … 「ほっといてくれ」「勝手だろ」「うるせえ」「なんだ、人間か」といった言葉を発します。
しゃべる、という点がこの怪異の核心です。
単に人の顔をした犬がいるだけなら、驚くだけです。それが人間の言葉で、しかも面倒くさそうに応じる。 ここに気味の悪さがあります。
霊的なものであり、強い霊感の持ち主にしか見えないという設定も付きました。
妖怪研究家の山口敏太郎は、リストラされて自殺した中年男性の怨念が犬に憑依したものかとしています。
人面犬の伝承物語
二つの目撃例 ─ 高速道路と繁華街
人面犬の目撃例は、きれいに二つに分かれます。
一つめは、高速道路です。
深夜の高速道路で、車に時速百キロメートルのスピードで追いすがる。 そして、追い抜かれた車は事故を起こす。
この型では、人面犬は不吉な存在です。速さが強調され、姿もはっきり見えません。
二つめは、繁華街です。
ごみ箱を漁っている。 店員や通行人が声をかけると、こう言い返して立ち去ります。
ほっといてくれ
この型では、人面犬は面倒くさそうです。害はありません。ただ、放っておいてほしいのです。
同じ怪異とは思えないほど性格が違います。
ほかにも「勝手だろ」「うるせえ」「なんだ、人間か」といった捨て台詞や、カップルに下品な言葉を吐いたという話が流布しました。
繁華街の人面犬は、疲れた中年男性そのものです。 山口敏太郎が「リストラされて自殺した中年男性の怨念」と見たのも、この性格によるでしょう。
誰が作ったか ─ 名乗り出た人々
人面犬の噂については、作ったと名乗り出た人が複数います。
もっとも有力な説 … ジャーナリストの石丸元章と、雑誌『ポップティーン』編集部が、読者投稿の話に創作を加えて意図的に仕掛けたというものです。
俳優の的場浩司 … テレビ番組で「人面犬の噂は自分と仲間が作り上げたものである」と発言しました。
爆笑問題の田中裕二 … 元芸人の放送作家の相方が「噂の伝播を調べるために意図的に流したものだ」と、ラジオ番組で述べたといいます。
うしろの百太郎の霊能犬という説
このほか、漫画『うしろの百太郎』に登場する霊能犬が時々人面になる描写があり、これが人面犬を生み出したという説もあります。
三人が別々に「自分が作った」と言っている。どれが本当かはわかりません。
ただし、これだけの人が「自分が作った」と言える程度には、作為の関わった噂だったことは確かでしょう。
噂の伝播を調べるために意図的に流したという説明は、ひとりかくれんぼについても語られています。
正体をめぐる説 ─ 時代が出る
人面犬の正体については、当時さまざまな説が語られました。
妖怪の類。
遺伝子操作による生物兵器。
「T市」という土地でのバイオテクノロジー実験による産物。
環境汚染による突然変異。
この並びに、1990年前後という時代がよく出ています。
遺伝子操作、バイオテクノロジー、環境汚染。いずれも当時、新しく人々の関心を集めていた言葉です。
江戸時代の妖怪の正体が狸や狐に帰されたように、現代の怪異の正体は科学技術に帰されます。説明の枠組みが、時代によって変わるということです。
霊的なものであり、強い霊感の持ち主にしか見えないという設定も付きました。これは説明が付かない場合の常套手段です。
そして、人面犬に噛まれた人間は人面犬になってしまうという噂も立ちました。感染するという発想は、現代の怪異によく見られます。
古い妖怪は、そこに「いる」ものでした。現代の怪異は、「増える」ものです。
人面犬の伝承地域
人面犬には、訪ねられる伝承地を挙げません。
人面犬は1989年から1990年にかけて流行した現代の噂であり、土地の言い伝えとして記録されたものではないためです。
目撃例として語られたのは、深夜の高速道路と繁華街です。どちらも噂の広まった範囲です。
そして、正体をめぐる説のなかに「T市という土地でのバイオテクノロジー実験による産物」というものがあります。実在の市を指すかのような書き方ですが、そのような実験も、それを裏づける事実も確かめられません。
実在の市を、確かめられない実験の場として書くことはしません。
「加古川市と高砂市で死亡事件が報道された」というカシマさんの派生と同じで、具体的な地名が入ると話は本当らしく見えます。 それが噂の作りです。
無い場所を、あるように書くことはしません。この欄は空のままにしてあります。
人面犬の正体と考えられているもの
人面犬の正体は、現代の噂です。 1989年から1990年にかけて全国で流行しました。
そして、作ったと名乗り出た人が複数います。
もっとも有力な説 … ジャーナリストの石丸元章と雑誌編集部が、読者投稿の話に創作を加えて意図的に仕掛けたというもの。
俳優の的場浩司 … 自分と仲間が作り上げたと発言。
放送作家 … 噂の伝播を調べるために意図的に流したという説。
三人が別々に「自分が作った」と言っています。 どれが本当かはわかりませんが、作為の関わった噂であることは確かでしょう。
そのうえで、なぜこれほど広まったかを考えることには意味があります。
一つめは、姿の単純さです。人の顔をした犬。一言で伝わります。
二つめは、しゃべることです。「ほっといてくれ」という一言が、この怪異を忘れがたいものにしました。怖いというより、気まずいのです。
三つめは、時代の言葉です。遺伝子操作、バイオテクノロジー、環境汚染。当時の新しい不安が、説明として使われました。
四つめは、報道です。マスコミが盛んに取り上げたことで、噂は加速しました。
1989年ごろに広まった噂です。
人面犬をめぐる妖怪のつながり
人面犬が登場する作品
人面犬は、1990年前後の空気をそのまま残している怪異です。高速道路、繁華街のごみ箱、リストラ。当時の日本の風景が、そのまま怪談になっています。
作品での扱いも、恐怖より可笑しみが前に立つことが多くなっています。「ほっといてくれ」という一言の力です。
人面犬が登場する出発点
雑誌の記事
ジャーナリストの石丸元章と雑誌編集部が、読者投稿に創作を加えて仕掛けたという説がもっとも有力です。
うしろの百太郎
登場する霊能犬が時々人面になる描写があり、人面犬を生み出したという説があります。
当時の報道
1989年から1990年にかけて、マスコミで盛んに取り上げられました。
人面犬が登場する映像
人面犬を題材とした映像作品
流行の当時から現在まで、複数の作品が作られています。
都市伝説を扱う作品
現代の怪談をまとめて扱う作品で、必ず取り上げられます。
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人面犬についてよくある質問
人面犬とは何ですか。
人間の顔をした犬の怪異です。1989年から1990年にかけて全国で流行し、報道でも盛んに取り上げられました。
どんな目撃例がありますか。
深夜の高速道路で車に追いすがるもの、繁華街でごみ箱を漁っており声をかけると「ほっといてくれ」と言い返すもの、の二つに大別されます。
誰が広めたのですか。
ジャーナリストと雑誌編集部が読者投稿に創作を加えて仕掛けたという説がもっとも有力です。ほかに俳優や放送作家が自分たちで作ったと発言した例もあります。
人面犬の正体は何とされましたか。
当時は、妖怪の類、遺伝子操作による生物兵器、バイオテクノロジー実験の産物、環境汚染による突然変異などが語られました。
人面犬に会える場所はありますか。
ありません。1989年から1990年にかけて流行した現代の噂であり、土地の言い伝えではないためです。
人面犬と併せて覚えたい言葉・用語
都市伝説(としでんせつ)
近代以降に広まった、出所のはっきりしない話。
人面魚(じんめんぎょ)
同時期に話題になった怪異。人の顔に見える模様を持つ鯉。
犬面人(けんめんじん)
人面犬と顔を交換したとされる存在。派生した話に登場する。