人の言葉を解し万物に通じる瑞獣。石燕は九つの眼を持つ姿に描いた。

鳥山石燕 「今昔百鬼拾遺 白澤」 1781年 / パブリックドメイン 出典
白澤とはどんな妖怪か
白澤はひとことで言えば、妖怪をすべて知っている獣です。
中国明代の百科事典『三才図会』によると、東望山(江蘇省徐州市銅山区)に白沢という獣が住んでいたといいます。
人間の言葉を操り、そのときの為政者が有徳であれば姿をみせたとされます。
そのような生態から、麒麟や鳳凰などと同類の瑞獣とみなされます。
『三才図会』や日本の『和漢三才図会』の白沢は白い獅子の姿です。ところが石燕の白澤は、九つの眼を持つ異形に描かれました。
旧字体で白澤とも書きます。
白澤の漢字表記と読み方
読みは「はくたく」です。
中国語ではBáizéと読みます。
同じ字を「しらさわ」と読む地名が各地にあります。青森・秋田・岩手・栃木・群馬など、この図鑑の獣とは別のものです。
混同を避けるため、この図鑑では旧字体の「白澤」を見出しにしています。
白澤(はくたく)
石燕の絵に添えられた表記。旧字体です。
白沢(はくたく)
新字体の表記。
白澤の姿と特徴
石燕の絵の白澤は、眼の数で目を引きます。
角 … 頭に牛のような二本角。
髭 … 下顎に山羊のような髭。
眼 … 額にもう一つ。胴体の側面に三つずつ。
合計 … 九つ。
体 … 獅子とも牛ともつかない獣。
『怪奇鳥獣図巻』の白沢は眼が二つで、麒麟の体躯を頑丈にしたような姿です。
白澤が登場する古典の物語
黄帝に妖怪を語る
伝説によれば、中国最古の王・黄帝が東海地方を巡行したおり、恒山に登ったあとの海辺で白沢に出会いました。
そのとき白沢は、1万1520種におよぶ天下の妖異鬼神の知識を語りました。
世の害を除くための忠言です。
黄帝はそれらを部下に書き取らせました。
こうしてできた書物が『白沢図』です。
『白沢図』という書物
『白沢図』でいう妖異鬼神とは、人に災いをもたらす病魔や天災の象徴です。
対処法も記されており、今でいう防災の手引きのようなものでした。
『捜神記』には、諸葛恪が山中の妖怪を退け、「このことは『白沢図』に書かれている」と答えた逸話があります。
『白沢図』は北宋代に散逸しました。 20世紀初頭、莫高窟から出土した敦煌文献の中に、関連する図画が見つかっています。
獅子と同じか
『本草綱目』は、獅(ライオン)の別名を「白沢」とする説に触れています。
その記述があるのは『説文解字』だとされますが、確認できていません。
ただし『本草綱目』は『瑞応図』を元に、獅と白沢は異なると結論づけました。
石燕の白澤が九つの眼を持つのは、獅子の姿とは別の系統をたどったためとみられます。
白澤の伝承地域
白澤をまつる社として広く知られたものは見当たりません。
白沢の図画は魔除けとして用いられ、旅の護符や病除けに貼られました。行ける場所としてではなく、紙の上で伝わってきた獣です。
白澤の正体と考えられているもの
白澤は、妖怪の側ではなく、妖怪を教える側にいます。
麒麟や鳳凰と同じ瑞獣——よい世に現れるしるしです。
それでも石燕が『今昔百鬼拾遺』に加えたのは、妖異鬼神を語った獣だからでしょう。
九つの眼は、すべてを見通すことの絵での表し方とみられます。
この図鑑には件も収めています。
白澤が登場する作品
白澤は、石燕の絵と『三才図会』『和漢三才図会』で読めます。
元になった『白沢図』は北宋代に失われました。残っているのは逸文と、敦煌から出た図画です。
白澤が登場する古典
三才図会
王圻ら、中国明代の百科事典。東望山に住む白沢を記します。
白澤が登場する研究
敦煌文献「白沢精怪図」
莫高窟から出土。散逸した『白沢図』に関わる図画とされます。
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白澤についてよくある質問
白澤とは何ですか。
人の言葉を解し万物の知識に精通するとされる中国の瑞獣です。図画は魔除けに用いられました。
眼はいくつありますか。
石燕の絵では、額に一つ、胴体の側面に三つずつで、合わせて九つです。
『白沢図』とは何ですか。
白沢が黄帝に語った妖異鬼神の知識を書き取った書物です。北宋代に散逸しました。
地名の白沢と関係がありますか。
ありません。同じ字を「しらさわ」と読む地名が各地にありますが、別のものです。
白澤と併せて覚えたい言葉・用語
瑞獣(ずいじゅう)
よい世に現れるとされる獣。麒麟や鳳凰と同類です。
白沢図(はくたくず)
白沢が語った妖異鬼神の知識を記した書物。北宋代に散逸しました。
妖異鬼神(よういきしん)
人に災いをもたらす病魔や天災の象徴を指します。