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全国に伝わるもの

火車(かしゃ)とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品

火車  / カシャ

火の妖怪獣の妖怪 各地の伝説鳥山石燕の絵

葬列や墓場から死体を奪うとされる妖怪。年を経た猫が化したものとされる。

火車の姿を描いた図

鳥山石燕 「画図百鬼夜行 火車」 1776年 / パブリックドメイン 出典

火車とはどんな妖怪か

火車は、葬儀や墓場から死体を奪う妖怪です。化車とも書きます。

伝承地は特定されておらず、全国に事例があります。そのことは十八世紀に鳥山石燕もすでに述べています。

この妖怪の面白いところは、姿が時代とともに変わってきたことです。

江戸初期ころは地獄の獄卒、あるいは牛頭馬頭の妖怪として描かれました。十六世紀後半には雷が遺体をさらうという構図が定まり、雷神の姿の火車も現れます。そして十七世紀末ごろ、猫型の火車の説話が確立しました。十八世紀後半、鳥山石燕が猫姿の火車を描いています。

年を経た猫がこれに変じるとも、猫又が正体だともいわれます。現れるときは暗雲や雷鳴、雷雨を伴うとされます。

仏教の火車は悪人だけを地獄へ運びます。妖怪の火車は、遺体を選びません。 同じ名で、相手の選び方が入れ替わっています。

火車の漢字表記と読み方

読みは「かしゃ」です。

火車という言葉は、もともと仏教の用語です。悪人を地獄へ送るための、火の燃える車を指します。

そこから、家計が苦しいことを「火の車」というようになりました。妖怪の火車と、家計の火の車は、同じ言葉から出ています。

妖怪の側は、宗教の色が薄れています。裁きの車ではなく、雷とともに来て棺をさらう獣。運ぶ相手も、罪の有無で決まりません。

地方名も多く、岩手県遠野ではキャシャ、群馬県ではカシャ、兵庫県宍粟市では火車婆と呼ばれます。

火車(かしゃ)

もっとも一般的な表記。

化車(かしゃ)

同じものの表記。

火車婆(かしゃばば)

播磨国(現在の兵庫県宍粟市)に伝わる類話での呼び方。

キャシャ(きゃしゃ)

岩手県遠野での呼び方。女性の姿とされる。

カシャ(かしゃ)

群馬県での呼び方。

火車の姿と特徴

火車の姿は、時代によって三段階に変わってきました。

第一段階(江戸初期ころ) … 地獄の獄卒、牛頭馬頭の妖怪として描かれます。火の燃える車を引く鬼の姿です。

第二段階(十六世紀後半以降)雷神の姿。雷が遺体をさらうという構図が確立します。太鼓を背負った鬼の姿で描かれます。

第三段階(十七世紀末以降)。年を経た猫が化したものとされ、鳥山石燕もこの姿で描きました。以後、火車といえば猫の妖怪となります。

石燕の絵では、炎をまとった巨大な猫が、雷雲のなかから遺体をさらう姿で描かれます。

岩手県遠野のキャシャは、これらと違って女性の姿です。前帯に巾着を着けた女の姿をしており、笠通山に住んで葬式の棺桶から死体を奪い、墓場から死体を掘り起こして食べたと伝わります。

鬼から雷神へ、雷神から猫へ。姿の変わり方がこれほどはっきり追える妖怪は多くありません。

火車の伝承物語

  1. 猫と死体 ─ 忌み嫌われた理由
  2. 猫檀家 ─ 恩を返す火車
  3. 奪われないための工夫
  4. 棺の道を壁に開ける ─ 葬送の作法

猫と死体 ─ 忌み嫌われた理由

火車の伝承は、猫を死者に近づけないという習俗と深く結びついています。

宮崎県の昔ながらの葬儀では、葬儀の後にも二日の通夜を設け、その期間ずっと誰かが遺体に付き添いました。夜も「夜伽」と称して近親者が添い寝します。

理由は明確です。絶えず見張りを立てていないと、火車がやってきて遺骸を盗むからです。そのため通夜のあいだ、猫は籠に閉じ込めて室内に入れませんでした。

猫に死体の上を越えさせると化け物になる、よくないことが起こる、死人が立つ、死体が生き返る──こうした言い伝えが宮崎県に伝わります。群馬県でも、魔物(カシャ)が死者を飛び越えると死者が復活すると言われました。

猫が死者に近寄ることを忌み嫌う。 この習俗は、日本の広い範囲にありました。

火車が猫の姿になったのは、この習俗があったからでしょう。順序は逆です。

猫檀家 ─ 恩を返す火車

火車を題材とした昔話に、『猫檀家』があります。恐ろしいだけで終わらない話です。

貧乏な寺に、一匹の猫が飼われていました。猫は世話になった和尚に報いようと考えます。そして、火車の悪役を買って出て一芝居打つのです。

有力者の葬列を襲うふりをして棺を空へ舞い上げ、誰にも下ろせなくします。そこへ和尚が現れて祈祷すると、棺はすんなり下りてくる。和尚の評判は上がり、寺は栄えました。

妖怪が、飼い主のために自分から悪役を演じる。 これは日本の昔話のなかでもよくできた筋立てです。

播磨国(現在の兵庫県宍粟市山崎町牧谷)にも「火車婆」の類話が伝わります。

火車は恐ろしい妖怪ですが、猫としての情も持っているものとして語られました。この二面性が、火車の話を単なる怪談で終わらせていません。

奪われないための工夫

遺体を火車に奪われないための対策が、各地に伝わっています。

見張りを立てる … 宮崎県の夜伽の風習が代表です。四日にわたって誰かが付き添いました。

猫を遠ざける … 通夜のあいだ、猫を籠に閉じ込めます。

刃物を置く … 遺体の上に刀や鎌を置くという方法が各地にあります。魔除けとしての刃物です。

空の棺を先に出す … 葬列で二つの棺を用意し、一つを空にして火車を欺くという方法も伝わります。

寺で祈祷する … 猫檀家の話は、この形の説話です。

これらの対策は、実際の葬送の作法として行われていました。 妖怪の話が、そのまま生活の手順になっていた例です。

遺体を守るという行為には、現実的な意味もありました。獣や虫から遺体を守る必要は確かにあったからです。火車の伝承は、その必要を説明する言葉でもありました。

棺の道を壁に開ける ─ 葬送の作法

遺体を守る工夫は、火車の話に限りません。柳田国男は、葬式そのものが戻らせないための作法でできていることを書きました。

村によつては壁を壞し窓を擴げて、棺の出る道を作る處もある。これ又通例の道を使へば、通例の方法で戻つて來ると云ふ懸念からである。

普段の戸口から出せば、普段の道で帰ってくる。 だから壁を壊して、その一度きりの道を作ります。

或地方では竹籠、臼の類を以つて座敷中を轉がしるところもある。これも目に見えぬ魂が、忍んで居らぬ事を確かめる手段に外ならぬ。

回り道をして帰る、川を渡って帰る、塩を振る。葬式の作法は、死者を送り出すと同時に、戻さないための手続き でした。

火車に奪われないための工夫は、この長い作法の列に並んでいます。 猫を近づけない、刃物を棺に載せる、二重の棺を使う。守っているのは遺体であり、同時に生きている側の暮らしです。

火車の伝承地域

火車には、訪ねられる伝承地がありません。

理由ははっきりしています。火車の伝承地は特定されておらず、全国に事例があります。 このことは十八世紀に鳥山石燕もすでに述べています。

伝承が記録された土地としては、宮崎県(五ヶ瀬町・西都市三宅の葬送の風習)、群馬県、岩手県遠野市(キャシャ、笠通山)、兵庫県宍粟市山崎町牧谷(火車婆)などがあります。

いずれも葬送の場、あるいは墓場です。

そして、この妖怪には配慮が要ります。火車は、実際の葬儀の場に現れるとされた妖怪です。 特定の土地や寺を「火車が出た場所」として名指しすることは、そこで葬られた人々への敬意を欠くことになります。

無い場所を、あるように書くことはしません。この欄は空のままにしてあります。

火車の正体と考えられているもの

火車の正体は、五つの層が重なったものです。

一つめは、仏教の火車。悪人を地獄へ送る火の車です。これが出発点で、罪を裁いて運ぶ 役でした。

二つめは、雷。十六世紀後半には、雷が遺体をさらうという構図が確立します。雷雨のなかで葬列が乱れ、棺が損なわれることは実際にありえます。

三つめは、猫。十七世紀末ごろ、火車と死体をさらう猫又の伝承が結びつき、猫型の火車が確立しました。猫を死者に近づけないという習俗が先にあったと考えられます。

四つめは、獣による遺体の損壊。土葬が主流だった時代、埋めた遺体が獣に掘り返されることは実際にありました。誰のしわざか分からない損壊に、名前が必要だったのです。

五つめは、葬送の作法を守らせるため。見張りを立てる、猫を遠ざける、刃物を置く。どれにも現実的な意味がありました。火車の話は、その理由を子供にも分かる形で言い換えたもの でもあります。

火車が何であったかは決められません。 ただし、鬼から雷神へ、雷神から猫へと姿が変わった経緯だけは、はっきり追えます。

火車をめぐる妖怪のつながり

火車が登場する作品

火車は、猫の妖怪として定着しました。石燕の絵の力が大きいものです。

近年は「火の車」という言葉の連想から、経済的な困窮を表す比喩としても使われます。もとは同じ言葉ですが、妖怪としての火車を知る人は多くありません。

火車が登場する古典

画図百鬼夜行

鳥山石燕の妖怪画集です。猫姿の火車を描き、この姿を定着させました。

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猫檀家

火車を題材とした昔話です。貧乏寺の猫が和尚に報いるために悪役を買って出ます。

火車が登場する小説

火車

宮部みゆきの小説です。題名にこの妖怪の名を用いています。

火車が登場する漫画・アニメ・ゲーム

ゲゲゲの鬼太郎

火車が登場します。

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妖怪ウォッチ

火車を下敷きにした妖怪が登場します。

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女神転生シリーズ

日本の妖怪の一体として実装されています。

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火車についてよくある質問

火車とは何ですか。

葬儀や墓場から死体を奪うとされる妖怪です。年を経た猫が化したもの、あるいは猫又が正体だといわれます。

なぜ猫の姿なのですか。

十七世紀末ごろ、火車と死体をさらう猫又の伝承が結びついたためです。猫を死者に近づけないという習俗が先にあったと考えられます。

火車に遺体を奪われないためにはどうしたのですか。

通夜のあいだ見張りを立てる、猫を籠に閉じ込める、遺体の上に刃物を置く、といった作法が各地にありました。

「火の車」と関係がありますか。

同じ言葉から出ています。もとは仏教で、悪人を地獄へ送るための火の燃える車を指しました。

火車に会える場所はありますか。

ありません。伝承地は特定されておらず、全国に事例があります。

火車と併せて覚えたい言葉・用語

夜伽(よとぎ)

通夜のあいだ遺体に付き添うこと。火車から守るためとされた。

猫又(ねこまた)

尾が二股に分かれた、年を経た猫。火車の正体とされることがある。

猫檀家(ねこだんか)

寺の猫が火車の悪役を演じて和尚に報いる昔話。

牛頭馬頭(ごずめず)

地獄の獄卒。江戸初期の火車は、この姿で描かれた。

火車の参考資料

この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。

  1. 青空文庫 柳田国男「幽霊思想の変遷」