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奈良県

前鬼・後鬼(ぜんき・ごき)とはどんな妖怪か|姿と伝承

前鬼・後鬼  / ゼンキゴキ

人型の妖怪 各地の伝説

役小角が従えた夫婦の鬼。前鬼が夫の赤鬼、後鬼が妻の青鬼。

前鬼・後鬼の姿を描いた図

葛飾北斎 「役の小角 前鬼・後鬼」 1819年ごろ / パブリックドメイン 出典

前鬼・後鬼とはどんな妖怪か

前鬼・後鬼は、役小角が従えたとされる夫婦の鬼です。

役小角は修験道の開祖です。前鬼が夫、後鬼が妻にあたります。

役小角を表した像や絵には、しばしば前鬼と後鬼が左右に従う形で表されます。役小角より一回り小さい小鬼の姿をしていることが多いものです。

善童鬼妙童鬼とも称します。前鬼の名は義覚(義学)、後鬼の名は義玄(義賢)ともいいます。

夫の前鬼は陰陽の陽を表す赤鬼で、鉄斧を手にし、名のとおり役小角の前を進んで道を切り開きます。笈を背負う姿が多く、現在の奈良県吉野郡下北山村の出身とされます。

妻の後鬼は陰を表す青鬼で、霊力のある水の入った水瓶を手にし、種を入れた笈を背負います。同県天川村の出身とされます。

二人は阿吽の関係にあります。

前鬼・後鬼の漢字表記と読み方

読みは「ぜんき・ごき」です。

前鬼は「前を行く鬼」、後鬼は「後ろに従う鬼」という意味です。役小角の前を進んで道を切り開くのが前鬼、後ろから水を運ぶのが後鬼という役割分担が、そのまま名になっています。

善童鬼・妙童鬼という呼び方もあります。「童」の字が付くのは、酒呑童子茨木童子と同じで、世の外にある者を指す呼び方です。

義覚・義玄は、役小角が改心した二人に与えた名とされます。役小角の弟子とされる義覚・義玄と同一視されることもありますが、実在性および実際の関係はわかっていません。

前鬼・後鬼(ぜんき・ごき)

もっとも一般的な表記。

善童鬼・妙童鬼(ぜんどうき・みょうどうき)

別の呼び方。

義覚・義玄(ぎかく・ぎげん)

役小角が与えたとされる名。義学・義賢とも書く。

五鬼(ごき)

前鬼と後鬼の五人の子。五坊ともいう。

前鬼・後鬼の姿と特徴

前鬼・後鬼の姿は、役小角像とともに定まっています。

前鬼(夫)
… 赤。陰陽の陽を表します。
持ち物 … 鉄斧。道を切り開くための道具です。
背負うもの … 笈(山伏が背負う箱)。
位置 … 役小角の前、あるいは向かって右。

後鬼(妻)
… 青(青緑にも描かれます)。陰を表します。
持ち物 … 理水(霊力のある水)が入った水瓶。
背負うもの … 種を入れた笈。
位置 … 役小角の後ろ、あるいは向かって左。

二人は阿吽の関係です。本来は、陰陽から考えて前鬼が阿(口を開く)、後鬼が吽(口を閉じる)ですが、逆とされることもあります。

鬼でありながら、寺で仏を守る側に立っている。 前鬼・後鬼は、日本の鬼のなかでも特別な位置にあります。

前鬼・後鬼の伝承物語

  1. 鬼取山の捕縛 ─ 子を隠して改心させる
  2. 五鬼の子孫 ─ 前鬼の集落
  3. 鬼から天狗へ ─ 前鬼坊

鬼取山の捕縛 ─ 子を隠して改心させる

前鬼・後鬼は、もとは生駒山地に住んで人に災いをなしていたとされます。

役小角は、この二人を不動明王の秘法で捕縛しました。

もう一つ、よく語られる話があります。役小角は、二人の五人の子供のうち末子を鉄釜に隠し、子供を殺された親の悲しみを訴えたというものです。二人は改心し、役小角に従うようになりました。

自分がしてきたことを、自分の身で味わわせる。 力で屈服させるのではなく、悲しみを教えて改心させるという筋です。

義覚(義学)・義玄(義賢)の名は、このとき役小角が与えたものとされます。

彼らが捕らえられた山は鬼取山または鬼取嶽と呼ばれ、現在の奈良県生駒市鬼取町にあたります。

なお、静岡県小山町須走にも、役小角が前鬼と後鬼を調伏して従えたとする伝説があります。

五鬼の子孫 ─ 前鬼の集落

前鬼・後鬼には、五人の子がいたとされます。五鬼または五坊と呼ばれ、名は真義・義継・義上・義達・義元といいます。

彼らは修験道の霊峰である大峰山の麓、現在の奈良県吉野郡下北山村前鬼に住んだとされます。この地には、二人のものとされるもあります。

下北山村の前鬼という集落は、地名がそのまま鬼の名です。

折口信夫は、二人をもと吉野の神と見ました。

おなじ役ノ行者に役せられた大峰山下の前鬼・後鬼と言ふ鬼も、やつぱり、吉野山中の神であつたもの、と思はれる。

子孫が村を構えたことも、書き留めています。

前鬼・後鬼共に子孫は人間として、其名の村を構へて居る。

鬼の子孫を名乗る家が、修験の道を支えてきたということになります。

千葉県銚子市には、前鬼を祀った前鬼山と呼ばれる山も伝わります。

鬼から天狗へ ─ 前鬼坊

前鬼には、後日談があります。

前鬼は後に天狗になったとされます。日本八天狗、あるいは四十八天狗のひとつに数えられる大峰山前鬼坊(那智滝本前鬼坊)がそれです。

鬼から天狗へ。この移り変わりには意味があります。

日本では、山の異形が鬼とも天狗とも呼ばれてきました。今昔物語集の段階では、山にいる正体不明のものが鬼とも天狗とも書かれ、区別がはっきりしていません。

修験道の側から見れば、山で修行する者を守る存在は天狗です。役小角に従った鬼が、山を守る天狗になるという筋書きは、修験の世界のなかで自然なものでした。

討たれるのでも、封じられるのでもなく、位が上がった。 前鬼・後鬼が日本の鬼のなかで特別なのは、この点です。

前鬼・後鬼の伝承地域

前鬼・後鬼の伝承地は、奈良県内の二か所が中心です。捕らえられた生駒市鬼取町と、住んだ下北山村前鬼です。

後鬼の出身地とされる天川村(奈良県吉野郡)も、修験道の要地です。ただし後鬼と直接結びつく目印を確かめられなかったため、ここには挙げていません。

このほか、静岡県駿東郡小山町須走に、役小角が前鬼・後鬼を調伏したという伝説があります。千葉県銚子市には前鬼を祀った前鬼山(御前鬼山)が伝わります。どちらも位置を確かめられませんでした。

なお、前鬼・後鬼の姿は全国の寺で見ることができます。 役小角(役行者)の像には、左右に前鬼・後鬼が従うことが多いためです。ただしどの寺のどの像に前鬼・後鬼が付くかは、実際に見て確かめる必要があります。確かめていない場所を挙げることはしません。

前鬼(下北山村)(ぜんき)

前鬼・後鬼が住んだとされる地

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前鬼(下北山村)の所在地:奈良県吉野郡下北山村前鬼

大峰山の麓にある集落で、地名がそのまま鬼の名です。前鬼・後鬼が住み、五人の子を作ったと伝わります。

この地には、二人のものとされるもあります。

大峰奥駈道の要にあたり、山伏のための宿坊が置かれてきました。前鬼・後鬼の子孫を名乗る家が、代々修験の道を支えてきたとされます。鬼の名を持つ集落が、修験道の中心のひとつになっているという珍しい土地です。

奈良県南部の山中。大峰奥駈道の途上にある。

鬼取山(生駒市鬼取町)(おにとりやま)

前鬼・後鬼が捕らえられたとされる山

地図で開く

鬼取山(生駒市鬼取町)の所在地:奈良県生駒市鬼取町

役小角が前鬼・後鬼を捕らえたとされる山です。鬼取山または鬼取嶽と呼ばれ、現在の生駒市鬼取町にあたります。

地名の「鬼取」は、鬼を取った山という意味です。捕縛の伝説が、そのまま町の名になっています。

山中には鶴林寺があり、江戸時代には巡礼の対象となっていました。千葉県銚子市の前鬼山の伝承も、この寺への巡礼から生まれています。

生駒山地の一角。生駒市の西部にあたる。

前鬼・後鬼の正体と考えられているもの

前鬼・後鬼の正体については、修験道の成り立ちから考える必要があります。

一つめは、役小角に従った実在の人々とする見方です。役小角の弟子とされる義覚・義玄と同一視されることがあります。ただしその実在性および実際の関係は、わかっていません。

二つめは、山に住んだ先住の人々とする見方です。生駒山地に住んで人に災いをなしていたとされる二人が改心して従った、という筋は、山の民が修験の集団に加わった過程と重ねて読むことができます。下北山村前鬼の集落が、子孫を名乗る家によって支えられてきたことは、この見方を補強します。

三つめは、陰陽の思想です。前鬼が赤で陽、後鬼が青で陰。阿吽の関係。役小角を中心に、陰陽が左右に並ぶという構図は、思想を形にしたものと見ることもできます。

四つめは、仁王や狛犬と同じ役割とする見方です。門を守り、阿吽で対になり、主を挟んで左右に立つ。前鬼・後鬼は、守護者としての型にきれいに収まっています。

前鬼・後鬼が実在の誰かを指すのかは、わかっていません。 確かなのは、鬼でありながら討たれも封じられもせず、修験道のなかで守護者として位置づけられ、その名を持つ集落が現在も存在するということです。

前鬼・後鬼をめぐる妖怪のつながり

同じ地域・原典 姿・性質が似る 対立・退治 混同・地域変異

前鬼・後鬼が登場する作品

前鬼・後鬼は、役小角とセットで扱われることがほとんどです。単独で主役になることは多くありません。

ただし二体で一組、赤と青、阿と吽という設定は作品で扱いやすく、式神や使い魔として繰り返し取り上げられています。

前鬼・後鬼が登場する信仰・彫像

役行者像

全国の寺や霊場に安置される役小角の像です。左右に前鬼・後鬼が従う形で表されることが多くあります。

大峰奥駈道

修験道の修行の道です。前鬼の集落がその要にあたります。

前鬼・後鬼が登場する漫画・アニメ

ゲゲゲの鬼太郎

前鬼・後鬼が登場する回があります。

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修験道を扱う作品

役小角を主人公とする作品では、必ず従者として登場します。

前鬼・後鬼が登場するゲーム

陰陽師(ゲーム)

式神として実装されています。

女神転生シリーズ

日本の鬼の一体として登場します。

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妖怪ウォッチ

前鬼・後鬼を下敷きにした妖怪が登場します。

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前鬼・後鬼についてよくある質問

前鬼・後鬼とは何ですか。

修験道の開祖・役小角が従えたとされる夫婦の鬼です。前鬼が夫の赤鬼、後鬼が妻の青鬼にあたります。

どうやって役小角に従うようになったのですか。

不動明王の秘法で捕縛されたとする話と、五人の子の末子を鉄釜に隠されて子を失う悲しみを教えられ、改心したとする話が伝わります。

前鬼と後鬼の違いは何ですか。

前鬼は陽を表す赤鬼で鉄斧を持ち、前を進んで道を切り開きます。後鬼は陰を表す青鬼で、霊力のある水の入った水瓶と種を入れた笈を持ちます。

前鬼は天狗になったのですか。

そう伝わります。日本八天狗、または四十八天狗のひとつである大峰山前鬼坊になったとされます。

前鬼・後鬼に会える場所はありますか。

奈良県吉野郡下北山村の前鬼という集落が、住んだ地とされます。生駒市鬼取町は捕らえられた地です。役行者像の左右に従う姿は、全国の寺で見ることができます。

前鬼・後鬼と併せて覚えたい言葉・用語

役小角(えんのおづぬ)

修験道の開祖とされる人物。役行者とも呼ばれる。

(おい)

山伏が背負う箱。前鬼・後鬼もこれを背負う姿で表される。

阿吽(あうん)

口を開いた形と閉じた形の対。仁王や狛犬も同じ形をとる。

大峰奥駈道(おおみねおくがけみち)

修験道の修行の道。前鬼の集落がその要にあたる。