いる場所に雨が降らなくなるという旱魃の神。手も足も一本ずつ。

鳥山石燕 「今昔画図続百鬼 魃」 1779年 / パブリックドメイン 出典
魃とはどんな妖怪か
魃はひとことで言えば、そこにいるだけで日照りになるものです。
女神の「魃」は、『山海経』の「大荒北経」に記述があります。もとの名は妭(ばつ)で、黄帝の娘です。
獣の姿の「魃」もあります。 『本草綱目』や前漢初期の『神異経』によれば、南方には𪕰または魃がおり、身長2尺から3尺、頭の上に目があり、風のように走るといいます。
これが現れると大旱魃になるが、厠に投げ込むと死んでしまうとされました。
『三才図会』の「神魃」は、魑魅に類する人面獣身で、手と足が一つずつしかなく、剛山という山に多くいるとされます。
石燕は、これらの特徴を総合して一枚に描きました。
魃の漢字表記と読み方
読みは「ひでりがみ」です。「ばつ」とも読みます。「旱魃」の「魃」と同じ字です。
古代においては「妭」と「魃」は同一の字でした。
日本では『和漢三才図会』が「魃(ひでりがみ)」と題して引用しており、石燕はその読みを受け継いでいます。
魃(ひでりがみ)
石燕の絵に添えられた表記と読み。
旱母(かんぼ)
石燕が記す別名。
妭(ばつ)
『山海経』での、女神としてのもとの名。
魃の姿と特徴
石燕の絵の魃は、岩山のふもとに立つ獣です。
顔 … 人の顔。
体 … 獣。
手足 … 一本ずつ。
走り方 … 風のよう。
まわり … 雨の降らない山。
空 … 日が照りつけている。
絵の右上には日輪が描かれ、光の筋が引かれています。
魃が登場する古典の物語
黄帝の娘としての魃
『山海経』の「大荒北経」によれば、魃は黄帝の娘です。
黄帝が蚩尤と戦った際、蚩尤陣営の雨師と風伯に対抗して、体内に大量の熱を蓄えている娘の魃を呼び寄せました。
魃が雨を止めることで、黄帝は勝利をつかみます。
しかし魃は、力を使いすぎて天へ帰れなくなっていました。
北へ帰りたまえ
魃の力は、そこにいるだけで周囲に旱魃をもたらします。
処刑することもできません。
やむなく黄帝は、赤水河の北方の係昆山へ幽閉しました。
それでも魃は、時折中原へやってきて旱魃を起こします。
そこで人々は、「神よ、北へ帰りたまえ」と言って魃を帰すのだといいます。
厠に投げ込むと死ぬ
獣の魃には、退ける手立てが伝えられています。
『本草綱目』や『神異経』によれば、厠に投げ込むと死んでしまうといいます。
隋時代の研究書『文字指帰』にも、「旱魃」という獣の居場所には雨が降らないとあります。
この図鑑の山精は、「魃」の名を呼ぶと人を犯すことができなくなるとされました。
名を呼ぶだけで効くほど、恐れられた名です。
魃の伝承地域
魃をまつる社として広く知られたものは見当たりません。
語られてきたのは、『山海経』『本草綱目』『三才図会』といった中国の書物と、それを引いた『和漢三才図会』です。
魃の正体と考えられているもの
魃は、日照りそのものが形をとったものです。
特定の神の名ではなく、各地の山川に旱魃を起こす神がいて、それぞれ姿も性質も異なるとされました。
女神の系統と、獣の系統があります。
石燕が描いたのは獣の系統で、『三才図会』の「神魃」に近い姿です。
この図鑑には、雨に関わるものとして雨降小僧も収めています。 雨を降らせるものと、雨を止めるものが、対になって並びます。
魃が登場する作品
魃は、石燕の絵と『和漢三才図会』で読めます。
大もとは『山海経』で、黄帝と蚩尤の戦いの場面に現れます。中国神話をたどると、この獣の別の顔が見えてきます。
魃が登場する古典
山海経
中国の地理書。「大荒北経」に黄帝の娘としての魃を記します。
魃が登場する研究
本草綱目
李時珍、1596年。獣としての魃と、厠に投げ込む対処を載せます。
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魃についてよくある質問
魃とは何ですか。
旱魃を起こす中国の神です。いる場所に雨が降らなくなるとされます。
どんな姿ですか。
石燕の絵では人面獣身で、手と足が一本ずつです。風のように早く走るとされます。
黄帝の娘というのは何ですか。
『山海経』に記される女神としての魃です。蚩尤との戦いで雨を止めました。
退ける方法はありますか。
『本草綱目』などは、厠に投げ込むと死んでしまうと記します。
魃と併せて覚えたい言葉・用語
旱魃(かんばつ)
長く雨が降らないこと。魃はその神とされます。
剛山(ごうざん)
『三才図会』が「神魃」の多くいる山とする山名です。
蚩尤(しゆう)
黄帝と戦った中国神話の存在。雨師と風伯を従えました。