天井裏から声を発し、人の顔を吸ってしまうという大阪の妖怪。
すいこみとはどんな妖怪か
すいこみは、大阪に現われたとされる妖怪です。
人間の顔を吸ってしまうといいます。
話は結婚の場面から始まります。
1100年ころ、難波にいた長者のもとに男性がやって来て、長者の娘との結婚を願いました。
そのときです。
家の天井裏から「この娘はおれがもらう娘だ」と怖ろしい鬼のような声が響きました。
先客がいました。
おそれおののいた男性が逃げようとします。
「命を取ろうか、顔を取ろうか」と再び声が響いて来ました。
選ばせます。
すいこみの漢字表記と読み方
読みは「すいこみ」です。
この名には、出どころがあります。
「すいこみ」という呼称は、児童向けに出版された南條武『完全図解シリーズ 妖怪ミステリー』(1974年)にあるものです。
同書、あるいはその情報を参考とした図書に、その名が使われています。
それより前の本には、別の見出しがあります。
参考になったと見られる早川純夫『日本の妖怪』(1973年)ではそのような呼称は無く、紹介文章のタイトルも「天井桟敷の声」となっています。
名がついたのは、後です。
すいこみ(すいこみ)
南條武『妖怪ミステリー』(1974年)での呼称。
天井桟敷の声(てんじょうさじきのこえ)
早川純夫『日本の妖怪』(1973年)での見出し。
蟇の少将(ひきのしょうしょう)
顔を吸われた男性が呼ばれるようになった名。
すいこみの姿と特徴
すいこみの姿は、わかっていません。
天井裏から響いて来た鬼のような声の主が「すいこみ」であると考えられますが、姿かたちはどのようなものかは不明です。
声だけが伝わります。
言ったことは、二つです。
「この娘はおれがもらう娘だ」
「命を取ろうか、顔を取ろうか」
そして、結果が残ります。
男性の端正だったその顔は、鼻のまわりに目鼻の寄ってしまった全く別の顔になりました。
顔の造作が中央に寄っています。
すいこみの伝承物語
命か、顔か
この話の要は、親の答えにあります。
「命を取ろうか、顔を取ろうか」と声が響きました。
二つに一つです。
長者の親たちがとっさに「顔」と答えたのです。
とっさに、です。
そして、その通りになりました。
男性は何物かによって顔を吸われてしまい、端正だったその顔は鼻のまわりに目鼻の寄ってしまった全く別の顔になってしまいました。
命は助かりました。
しかし、顔を失いました。
親は、娘の婿の顔を差し出したことになります。
とっさの一言が、他人の顔を決めました。
答えなければ、どうなったかは書かれていません。
蟇の少将
早川純夫『日本の妖怪』(1973年)には、後日譚まで記されています。
男性が鼻に目鼻が寄ってしまった容貌から「蟇(ひき)の少将」と呼ばれるようになったといいます。
蟇は、ヒキガエルです。
その顔にたとえられました。
そして、場面も違います。
早川の本では、怖ろしい声が出現するのは男性が長者の娘と結婚(婿入り)をしたその夜です。
結婚を願う場面ではありません。
すでに婿入りした後の夜です。
そのほうが、話としては重くなります。
娘を得た夜に、顔を失います。
名は後からついた
すいこみは、名の出どころがはっきりしている妖怪です。
「すいこみ」という呼称は、児童向けに出版された南條武『完全図解シリーズ 妖怪ミステリー』(1974年)にあるものです。
その一年前の本を見ます。
参考になったと見られる早川純夫『日本の妖怪』(1973年)では、そのような呼称は無く、紹介文章のタイトルも「天井桟敷の声」となっています。
名がありませんでした。
そして、内容にも差があります。
怖ろしい声が出現する場面(結婚を願うときか、婿入りした夜か)、「蟇の少将」と呼ばれるようになった後日譚の有無など、==差異がみられます。
児童書で名がつき、その名で広まりました。
元の話に名は無かったという点を、押さえておく必要があります。
すいこみの伝承地域
すいこみは、大阪に現われたとされます。
舞台は難波の長者の家で、時期は1100年ころとされます。
平安時代の終わりごろにあたります。
長者の家そのものが舞台であり、具体的な場所は特定されていません。
碑も跡も、この名では見つかっていません。この欄は空のままにしてあります。
すいこみの正体と考えられているもの
すいこみについては、次のように整理できます。
一つめは、天井裏の声です。家の天井裏から「この娘はおれがもらう娘だ」と怖ろしい鬼のような声が響き、その声の主が「すいこみ」であると考えられますが、姿かたちはどのようなものかは不明です。
二つめは、親の答えです。「命を取ろうか、顔を取ろうか」と問われ、長者の親たちがとっさに「顔」と答えたため、男性は顔を吸われました。
三つめは、蟇の少将です。鼻のまわりに目鼻の寄ってしまった全く別の顔になり、その容貌から「蟇の少将」と呼ばれるようになったと早川純夫の本にあります。
四つめは、名の出どころです。「すいこみ」という呼称は南條武『妖怪ミステリー』(1974年)にあるもので、その前年の早川純夫『日本の妖怪』ではそのような呼称は無く、タイトルも「天井桟敷の声」でした。
この妖怪は、名が後からついた例です。 姿も由来も語られないまま、名だけが広まりました。
すいこみをめぐる妖怪のつながり
すいこみが登場する作品
すいこみは、児童書で名がついた妖怪です。
元の紹介では「天井桟敷の声」と呼ばれ、名前はありませんでした。 翌年の本で「すいこみ」となり、その名で広まりました。
資料は昭和の妖怪本が中心です。
すいこみが登場する研究
日本の妖怪
早川純夫、1973年。「天井桟敷の声」として紹介し、蟇の少将の後日譚も記します。
完全図解シリーズ 妖怪ミステリー
南條武、1974年。「すいこみ」という呼称はこの児童書にあるものです。
すいこみが登場する漫画・アニメ
妖怪をまとめて扱う作品
顔を奪う妖怪として、のっぺらぼうと並べて取り上げられます。
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すいこみについてよくある質問
すいこみとは何ですか。
大阪に現われたとされる妖怪で、人間の顔を吸ってしまうといいます。天井裏から響いて来た鬼のような声の主と考えられますが、姿かたちは不明です。
どんな話ですか。
長者の娘との結婚を願う男性に、天井裏から「この娘はおれがもらう娘だ」と声が響き、続いて「命を取ろうか、顔を取ろうか」と問われました。 長者の親たちがとっさに「顔」と答えたため、男性は顔を吸われました。
顔はどうなったのですか。
端正だったその顔は、鼻のまわりに目鼻の寄ってしまった全く別の顔になりました。 その容貌から「蟇(ひき)の少将」と呼ばれるようになったといいます。
名前はいつついたのですか。
「すいこみ」という呼称は南條武『完全図解シリーズ 妖怪ミステリー』(1974年)にあるものです。前年の早川純夫『日本の妖怪』(1973年)ではそのような呼称は無く、タイトルは「天井桟敷の声」でした。
すいこみと併せて覚えたい言葉・用語
難波(なにわ)
大阪の古い地名。すいこみの舞台とされる。
蟇(ひき)
ヒキガエル。顔を吸われた男性のあだ名に使われた。
天井桟敷(てんじょうさじき)
劇場の最上階の席。早川純夫の本の見出しに使われた語。