盆に豆腐を載せて持つ子供の妖怪。江戸の草双紙で生まれた。

北尾政美 「豆腐小僧」 1788年 / パブリックドメイン 出典
豆腐小僧とはどんな妖怪か
豆腐小僧は、豆腐を持っている子供の姿をした妖怪です。主に江戸時代後期以降の草双紙や錦絵に描かれました。
頭に笠をかぶり、盆に載せた豆腐を持つ姿で描かれます。顔は、人間の子供そのままのものと、一つ目のものがあります。
豆腐は紅葉豆腐と呼ばれる、紅葉の葉のかたちが浮き出た豆腐が描かれていることが多いものです。これは江戸時代後期に実際に販売されていた豆腐です。
民俗学的な採集や昔話、当時の随筆、奇談集などに出現譚がほとんど確認されないことから、江戸時代に草双紙の上で描かれた創作上の妖怪と見られています。安永年間(1772年〜1781年)から確認できます。
草双紙では、買ってきた豆腐や酒を持ち運んでいる子供の姿で現れ、雨の夜などに人のあとをつけて歩くこともありますが、特にひどい悪さはしません。
豆腐小僧の漢字表記と読み方
読みは「とうふこぞう」です。
小僧は、年少の男子や、店の使い走りをする子供を指します。妖怪の名では、一つ目小僧、からかさ小僧、かぶきり小僧など数多く使われます。
豆腐小僧が持つ紅葉豆腐は、紅葉の葉のかたちが浮き出た豆腐です。江戸時代後期に実際に売られていました。
黄表紙『夭怪着到牒』(北尾政美、1788年)では、大頭小僧という名の妖怪が豆腐小僧の特徴で描かれています。同書には、父は妖怪の総大将である見越入道、母は轆轤首という設定まで付けられています。
妖怪に親を設定するという発想が、江戸の草双紙にはありました。
豆腐小僧(とうふこぞう)
もっとも一般的な表記。
大頭小僧(おおあたまこぞう)
『夭怪着到牒』(1788年)での名。豆腐小僧の特徴で描かれている。
紅葉豆腐(こうようどうふ)
豆腐小僧が持つ豆腐。紅葉の形が浮き出たもので、実在した。
豆腐小僧の姿と特徴
豆腐小僧の姿は、次のように決まっています。
頭 … 笠をかぶる。大きいとされます。『妖怪仕内評判記』にこうあります。
豆腐小僧といふ化物は頭大ぶりにて
手 … 盆を持つ。
盆の上 … 豆腐。多くは紅葉豆腐。
顔 … 人間の子供そのままのもの、あるいは一つ目。
着物 … ごく普通の子供が着ているようなもの。
着物には工夫が見られます。童子格子(芝居での酒呑童子に由来するともされます)に似た格子模様や、春駒、達摩、耳みみずくなど、疱瘡(天然痘)除けとされる玩具を描き込んだ例も数点あります。
子供を守るための図柄が、子供の妖怪の着物に描かれている。 細かいところに気の配られた妖怪です。
幕末から明治時代にかけては、凧、すごろく、かるたなど「おもちゃ絵」のなかで描かれる妖怪として親しまれました。川柳や狂歌、歌舞伎にも見ることができます。
豆腐小僧の伝承物語
いじめられる妖怪 ─ 草双紙での役回り
豆腐小僧は、妖怪でありながら強くありません。
草双紙では、買ってきた豆腐や酒を持ち運んでいる子供の姿で現れます。雨の夜などに人のあとをつけて歩くこともありますが、特にひどい悪さをしたりはしないと扱われています。
そのため、物語のうえでは人間に相手にされることもない、お人好し・気弱・滑稽な役回りの登場人物として設定されていることが多いのです。
ほかの妖怪たちにいじめられているという筋書きの例もあります。
黄表紙『妖怪仕内評判記』(恋川春町、1779年)では、豆腐小僧はイタチが化けたものとされています。
黄表紙『夭怪着到牒』(北尾政美、1788年)では、大頭小僧という名で描かれ、父は妖怪の総大将・見越入道、母は轆轤首という設定が付けられています。
強い妖怪の子でありながら、本人は弱い。 江戸の草双紙は、こうした人物設定を楽しんでいました。
盆にのせた白い四角
豆腐小僧が豆腐を持っている理由については、興味深い説明があります。
妖怪研究家の多田克己によれば、こうです。
「豆粒(まめつぶ)」が「魔滅(まめつ)」に通じる。
そのため、一つ目小僧は豆を嫌うと伝承されていた。
ところが、いつしか一つ目小僧の好物が豆腐だという伝承にすり替わってしまった。
そして、これが豆腐小僧の伝承につながった。
嫌うはずのものが、好物になった。 言葉の似た音が、意味を反転させたという説明です。
妖怪かるたには、一つ目小僧が豆腐を持っている絵の描かれているものがあります。豆腐小僧の顔が一つ目で描かれることがあるのも、この関係によるでしょう。
豆腐は白く、四角く、絵にしたときによく目立ちます。 そして、豆腐を買いに行かされる子供は、江戸の町でごく当たり前の光景でした。
日常の光景に、少しだけずれを加える。 豆腐小僧の作り方は、そういうものです。
カビの話は後から ─ 昭和の追加
現在よく見かける説明があります。
雨の夜に現れ、通りかかった人に豆腐を食べるようにすすめる。食べると体中にカビが生えてしまう。
この記述は、昭和・平成以降の妖怪関連の文献に多く見られます。
しかし、江戸時代にこのような特徴を記載した資料は見られません。
昭和以降の妖怪図鑑で、創作的に付け加えられたものです。
江戸の草双紙での豆腐小僧は、ただ豆腐を持って歩いているだけでした。人のあとをつけることはあっても、害はありません。
こうした後付けは、豆腐小僧に限りません。ぬっぺふほふの「廃寺に現れる」も、砂かけ婆の老婆の姿も、後から加えられたものです。
空白があると、誰かが埋める。 妖怪の解説には、この動きが常につきまといます。
豆腐を食べてもカビは生えません。 江戸の資料には、そう書かれていないというだけのことですが、正確に伝えられるべきことです。
豆腐小僧の伝承地域
豆腐小僧には、訪ねられる伝承地がありません。
理由ははっきりしています。豆腐小僧は江戸時代に草双紙の上で描かれた創作の妖怪であり、土地の言い伝えとして記録されたものではないためです。
民俗学的な採集や昔話、当時の随筆、奇談集などの文脈で、豆腐小僧の出現譚はほとんど確認されていません。
描かれたのは、草双紙、錦絵、凧、すごろく、かるたといった印刷物と玩具のなかです。川柳や狂歌、歌舞伎にも登場しました。
紙の上に生まれ、紙の上で親しまれた妖怪です。
そのため、「豆腐小僧が出た場所」というものはありません。あえていえば、江戸の町の、豆腐を買いに行く道すじがその舞台です。
無い場所を、あるように書くことはしません。この欄は空のままにしてあります。
豆腐小僧の正体と考えられているもの
豆腐小僧の正体は、わかっています。江戸時代の草双紙で生まれた創作の妖怪です。
根拠は明快です。民俗学的な採集や昔話、当時の随筆、奇談集などの文脈上で、豆腐小僧の出現譚がほとんど確認されていません。 安永年間(1772年〜1781年)から草双紙で確認できますが、それ以前にも、それ以外の文脈にも見当たりません。
そのうえで、なぜこの妖怪が作られたかは考えられます。
一つめは、一つ目小僧からの派生です。多田克己によれば、「豆粒」が「魔滅」に通じることから一つ目小僧は豆を嫌うとされていたはずが、いつしか好物が豆腐だという伝承にすり替わり、それが豆腐小僧につながったといいます。
二つめは、絵としての強さです。白く四角い豆腐は、絵にしたときによく目立ちます。笠をかぶった子供が盆を持つ姿は、一目で覚えられます。
三つめは、役回りの必要です。草双紙には、強い妖怪ばかりでなく弱くて滑稽な妖怪も必要でした。豆腐小僧は、その役を担いました。父は見越入道、母は轆轤首という設定まで作られています。
四つめは、日常の光景です。豆腐を買いに行かされる子供は、江戸の町のありふれた姿でした。
創作であることは、この妖怪の価値を下げません。 ただし、正確に伝えられるべきことです。
豆腐小僧をめぐる妖怪のつながり
豆腐小僧が登場する作品
豆腐小僧は、何もしない妖怪として愛されてきました。江戸の草双紙では滑稽な役回りを担い、現代の小説でも何もしないことそのものを主題として扱われています。
日本の妖怪のなかで、弱さと無害さで生き残った数少ない例です。
豆腐小僧が登場する古典
妖怪仕内評判記
恋川春町、1779年の黄表紙です。初期の豆腐小僧が描かれ、イタチが化けたものとされます。
夭怪着到牒
北尾政美、1788年の黄表紙です。大頭小僧の名で描かれ、父は見越入道、母は轆轤首という設定が付けられています。
おもちゃ絵
幕末から明治にかけて、凧・すごろく・かるたなどに描かれ親しまれました。
豆腐小僧が登場する小説
豆腐小僧双六道中ふりだし
京極夏彦の小説です。何もしない妖怪である豆腐小僧を主人公としています。
豆腐小僧が登場する漫画・アニメ・ゲーム
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豆腐小僧についてよくある質問
豆腐小僧とは何ですか。
豆腐を持っている子供の姿をした妖怪です。江戸時代後期以降の草双紙や錦絵に描かれました。
豆腐小僧は昔から伝わる妖怪ですか。
土地の伝承ではありません。民俗学的な採集や昔話に出現譚がほとんど確認されず、江戸時代に草双紙の上で描かれた創作の妖怪と見られています。
豆腐を食べるとカビが生えるというのは本当ですか。
江戸時代の資料にはこのような記述がありません。昭和以降の妖怪図鑑で創作的に付け加えられたものです。
なぜ豆腐を持っているのですか。
「豆粒」が「魔滅」に通じることから一つ目小僧は豆を嫌うとされていたはずが、いつしか好物が豆腐だという伝承にすり替わり、豆腐小僧につながったという説があります。
豆腐小僧に会える場所はありますか。
ありません。草双紙のなかで生まれた妖怪であり、土地の言い伝えとして記録されたものではないためです。
豆腐小僧と併せて覚えたい言葉・用語
草双紙(くさぞうし)
江戸時代の絵入りの読み物。黄表紙もその一つ。
紅葉豆腐(こうようどうふ)
紅葉の形が浮き出た豆腐。江戸時代後期に実際に売られていた。
見越入道(みこしにゅうどう)
妖怪の総大将とされる大入道。豆腐小僧の父という設定が作られた。
おもちゃ絵(おもちゃえ)
子供向けの浮世絵。凧やすごろく、かるたに妖怪が描かれた。