黒雲から毛深い顔と鋭い爪を突き出し、水門の上で長い舌を垂らす妖怪。

鳥山石燕 「画図百鬼夜行 赤舌」 1776年 / パブリックドメイン 出典
赤舌とはどんな妖怪か
赤舌は、石燕が『画図百鬼夜行』に描いた妖怪です。黒い雲の中から獣のような頭と前脚だけを現し、裂けるほど開いた口から太い舌を垂らします。
足元にあるのは、板を組んだ水門です。石燕は詳しい事件を書き添えなかったため、赤舌の中心は「何をしたか」よりも、雲・爪・舌・水門が作る一瞬の威圧感にあります。
赤舌の漢字表記と読み方
「あかした」と読みます。画面では舌の色が名を担い、黒い雲と水門の淡い線の間で、口元が最も強い印象を残します。
赤舌(あかした)
大きく突き出した舌を、そのまま名の中心に置いた表記。
赤舌の姿と特徴
黒雲の中へ胴体の大半を隠し、毛深い頭、丸い目、太い眉、鋭い爪、長い舌だけを見せます。全身の大きさは測れませんが、水門を覆う頭部によって巨大さが伝わります。
赤舌の伝承記録
黒雲が割れ、獣の顔だけが現れる
赤舌は地面に立たず、黒雲の塊から顔を突き出します。雲は背中や腹を隠し、見えるのは眉の太い頭部と、前へ伸ばした二本の脚だけです。どこから来たのか、雲の奥にどれほど大きな身体があるのかは見えません。
空を飛ぶというより、雲そのものが身体の続きに見えます。輪郭を半分だけ隠す構図によって、赤舌は一枚の絵の外側まで広がる怪物になります。
鋭い爪と長い舌が同時に迫る
口は顔の下半分を占めるほど大きく開き、太い舌が下へ伸びます。その左右からは爪の長い脚が出て、水門の上をつかむように構えます。噛みつく牙より、舌と爪が前へ迫る姿が赤舌の特徴です。
後の化物絵巻や妖怪双六でも、大口、長い舌、黒雲、鋭い爪は繰り返し描かれました。名前だけでなく、見る者を正面から圧する顔の形が受け継がれています。
水門の上に浮かぶ理由は絵の中に残る
赤舌の下には、横木と縦板を組んだ水門があります。水を止めたり流したりする境目の真上へ怪物を置いたため、雲の暗さと水辺の開けた場所がぶつかります。
ただし画面に田畑や争う人々はおらず、水を奪う場面も、水を公平に分ける結末もありません。水門は赤舌を水辺へ結びつける確かな手がかりですが、それだけで一続きの水争いの物語にはなりません。
別の絵師も「顔が雲から出る」姿を選んだ
北斎季親の『化物尽絵巻』にある赤舌も、黒雲に大きな頭部を浮かべ、口を開いて舌を見せます。妖怪飛巡双六では、水門の上から獅子に似た顔と大きな爪がのぞきます。
背景や細部が変わっても、雲の中へ身体を隠し、顔と舌を前へ出す構えは崩れません。赤舌は長い伝記を持つ登場人物ではなく、繰り返し描ける強い顔によって広まった妖怪です。
赤舌と垢嘗は、舌の使い方も現れる場所も違う
赤舌と垢嘗は、どちらも大きな舌が目立つため名前を取り違えやすい妖怪です。赤舌は黒雲の中から水門を覆い、舌を前へ垂らします。垢嘗は浴室や風呂桶のそばに現れ、たまった垢を舐める姿で描かれます。
赤舌の舌は、顔の大きさと威圧感を強める造形です。垢嘗の舌は、汚れを舐め取る行動へつながります。同じ「舌の妖怪」でも、水辺を塞ぐ巨大な顔と、浴室へ忍び込む小さな怪物では、絵の場面も役割も異なります。
赤舌の伝承地域
石燕図の水門には地名がなく、特定の村や川は示されません。津軽の水争いへ結びつける後世の説明からも、原図が描いた土地までは決まりません。
赤舌の正体と考えられているもの
赤舌の正体は、黒雲から現れる巨大な顔そのものです。爪のある脚、垂れた舌、水門という少ない要素が強く結びつき、別の絵師にも写されました。長い性格設定より先に、雲と水の境目を塞ぐ異様な顔がこの妖怪の核にあります。
赤舌をめぐる妖怪のつながり
赤舌が登場する作品
赤舌は、繰り返し描かれることで広まった妖怪です。
長い伝記も、退治の物語もありません。 残っているのは、雲から顔を出し、舌を前へ垂らす構えだけです。
後の絵巻や妖怪双六でも、大口、長い舌、黒雲、鋭い爪は繰り返されました。名前ではなく、正面から圧する顔の形が受け継がれています。
赤舌が登場する妖怪画
Amazonのアソシエイトとして、当サイトは適格販売により収入を得ています。
赤舌についてよくある質問
赤舌とはどんな妖怪ですか。
黒雲から毛深い頭と鋭い爪を出し、大きく開いた口から長い舌を垂らす妖怪です。鳥山石燕は水門の上へ浮かぶ姿を描きました。
赤舌は水を操る妖怪ですか。
石燕図には水門がありますが、水を動かす場面や能力の説明はありません。まず分かるのは、水の境目に巨大な顔が現れる構図です。
赤舌はなぜ黒い雲に包まれていますか。
雲は胴体を隠し、顔と爪と舌だけを前へ出す役割を持ちます。空を飛ぶ生態の説明というより、全身を見せないことで大きさを感じさせる描き方です。
赤舌は青森県の妖怪ですか。
石燕の画面に地名はなく、全国向けの妖怪画として刊行されました。津軽の水争いへ結びつける後世の話だけで、原図の土地を決めることはできません。
赤舌と併せて覚えたい言葉・用語
水門(すいもん)
水を止めたり流したりするための門。赤舌の真下に描かれる。
化物尽絵巻(ばけものづくしえまき)
北斎季親が描いた化物絵巻。黒雲から顔を出す赤舌を収める。
妖怪双六(ようかいすごろく)
妖怪を升目へ配した遊戯用の絵。赤舌の姿が後世へ広がった例になる。
赤舌の参考資料
この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。