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全国に伝わるもの

鬼女(きじょ)とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品

鬼女  / キジョ

人型の妖怪 各地の伝説能・浄瑠璃軍記・物語

怒りや執着によって鬼の姿になった女性を指す、説話と芸能の広い類型。

鬼女の姿を描いた図

不明 「土佐お化け草紙 鬼女」 1859年 / パブリックドメイン 出典

鬼女とはどんな妖怪か

鬼女は、人から鬼になった女です。

裏切られ、追われ、捨てられた末に角が生える。 鬼女の話は、そのほとんどが変身の物語です。

安達ヶ原の鬼婆、戸隠の紅葉、道成寺の清姫。三人とも別々の物語を持ちますが、鬼になる前に人としての境遇があります。

折口信夫は、鬼と神をひとつづきのものとして説きました。

鬼は怖いもの、神も現今の様に抽象的なものではなくて、もつと畏しいものであつた。

恐ろしいものは、もとは祀られる側にいた。 鬼女もまた、退治される者でありながら、社を建てて祀られた例をいくつも持ちます。

鬼女の漢字表記と読み方

読みは「きじょ」です。

「おにおんな」と読む創作もありますが、熟語としては「きじょ」です。

近い言葉が三つあります。鬼婆は老女に限った呼び方、般若は能面の名、山姥は山に住むもの。鬼女はこの三つを含む、いちばん広い言葉です。

紅葉、橋姫、清姫。固有名を持つ者たちの上に、鬼女という分類名がかぶさっています。

鬼女(きじょ)

女性の鬼を広く指す表記。

女鬼(じょき・めおに)

漢文調や説明的な文章で見られる表記。

鬼婆(おにばば)

老女の姿に限った呼び名。安達ヶ原の鬼婆が代表。

鬼女の姿と特徴

鬼女の姿は、物語の段階によって変わります。

人の女性の姿で旅人を迎え、夜になると正体を見せる型があります。

角と牙を持つ鬼の姿では、髪を乱し、口を大きく開き、鋭い爪を見せます。能では般若などの面が、苦しみと怒りが一体になった顔を表します。

老女の姿では、山中の家で旅人を泊め、人を食べようとする鬼婆になります。

美しい女から鬼へ変わる場面は、舞台のいちばんの見せ場です。面をかけ替えることで、内側が外に出ます。

角、鉄棒、赤い肌がそろうのは、そのうちの一部です。般若の面は、怒りと悲しみを同じ顔に彫ってあります。 眉は苦しみで寄り、口は牙をむいたまま、目尻は落ちている。

鬼女の伝承物語

  1. 奥の間の骨 ─ 安達ヶ原の鬼婆
  2. 酒に酔わされる維茂 ─ 戸隠の紅葉
  3. 鐘の中の男を焼く ─ 道成寺の清姫
  4. 面をかけ替える ─ 内側が顔に出る
  5. 退治されて、祀られる ─ 鬼女の行方

奥の間の骨 ─ 安達ヶ原の鬼婆

安達ヶ原の物語では、旅の僧が一軒家へ泊まり、家の女から奥の部屋を見ないよう言われます。

禁を破ってのぞくと、そこには人の死体や骨が積まれていました。家の主は旅人を襲う鬼婆で、僧は逃げ、祈りによって退けます。

この話は能「黒塚」「安達原」、絵画、芝居で繰り返し演じられました。一人で山に住む老女、見るなの禁、正体の露見。 怪談の型が三つ重なっています。

福島県二本松市には、鬼婆を葬ったという黒塚が今もあります。元禄二年、松尾芭蕉も立ち寄りました。

酒に酔わされる維茂 ─ 戸隠の紅葉

紅葉の物語では、山中で宴を開く美しい女性が、武将の前で鬼の正体を現します。

能「紅葉狩」では、平維茂が紅葉見物の女たちに誘われ、酒に酔って眠ります。夢の警告を受け、目覚めて鬼と戦います。後世の伝説では、鬼女紅葉の生い立ちや戸隠での暮らしが詳しく加えられました。

美しい宴から、いきなり戦いへ反転する。 紅葉の色と山の暗さが、その落差を支えます。

長野県の鬼無里(きなさ)には、都を追われた紅葉がここに住んだという伝えが残ります。鬼が無い里という地名そのものが、退治の記憶です。

鐘の中の男を焼く ─ 道成寺の清姫

道成寺物では、女が男を追い、川を渡るため蛇の姿になり、鐘の中へ隠れた男を焼き殺す筋が語られます。

能「道成寺」では、後日、寺の鐘供養へ白拍子が現れ、舞の末に鐘へ飛び込みます。面と装束の変化が、過去の執着が戻る怖さを表します。

この女は、蛇にも般若にも亡霊にもなります。追う場面では蛇、恨む場面では般若、現れる場面では亡霊。一つの姿に収まらないことが、この物語の怖さです。

面をかけ替える ─ 内側が顔に出る

古い社会で、女の怒りや欲望は表立って語られませんでした。それが舞台では、鬼の姿という形を与えられます。

折口信夫は、鬼という語がもともと何を指したのかを問い直しています。

おには「鬼」といふ漢字に飜された為に、意味も固定して、人の死んだものが鬼である、と考へられる様になつて了うたのであるが、もとは、どんなものを斥しておにと称したのであらうか。

(斥して=指して)

鬼という字が来る前、そこにあったのは「隠れているもの」でした。

退治されて、祀られる ─ 鬼女の行方

鬼女は退治されて終わりません。討たれた後に祀られる例がいくつもあります。

長野県の鬼無里では、討たれた紅葉を祀る堂が建てられました。福島県二本松の黒塚は、鬼婆を葬った塚として今も残ります。和歌山の道成寺では、清姫の物語が寺の縁起として語り継がれています。

討った側が、討たれた者の名で場所を呼び続ける。 鬼女の話が長く残ったのは、恐ろしいからだけではありません。その後の始末まで、土地が引き受けているからです。

鬼女の話には、変身の前に必ず人の側の行いが置かれます。裏切り、追放、孤独、貧困。観客は鬼を恐れながら、そこへ至った道筋も見ています。

鬼女は女性嫌悪の表現を含み得ると同時に、抑えられた感情を舞台で語る器にもなりました。

鬼女の伝承地域

鬼女は分類名であり、一つの出現地を持ちません。

安達ヶ原、戸隠、道成寺などは個別作品や伝説の舞台です。この総称ページへすべての住所を並べると、別々の登場者を一体の移動記録のように見せてしまいます。

個別の伝承地は、それぞれ鬼婆、紅葉、道成寺物を扱う資料で確かめるべきです。鬼女そのものに会える場所として確認できないため、場所欄は空にします。

鬼女の正体と考えられているもの

鬼女の正体は、物語ごとに異なります。

山の異界に住む者として、人里の外の危険を表す場合があります。

亡霊や変身した人として、裏切りや執着の結果を見せる場合があります。

政治的な敵の異形化として、討伐される側を鬼と呼ぶ場合もあります。

一人の精神状態や病気を全国の鬼女の原因にすることはできません。実在の女性が角を生やした証拠もありません。

鬼女は、社会が女性の力、怒り、境界をどう恐れ、どう舞台化したかを映す物語上の類型です。個々の話の背景を消さずに読む必要があります。

鬼女をめぐる妖怪のつながり

鬼女が登場する作品

鬼女の作品を読むときは、変身前の名前と事情が要になります。紅葉には都を追われた過去があり、清姫には裏切られた夜があります。

般若という面は、複数の役で使われます。面の名と登場人物の名は別のものです。同じ演目でも流派と台本で筋が変わり、絵画では一場面だけが有名になって前後が消えます。

鬼女を「怖い女性の顔」の一覧で終わらせず、変身前、変身の契機、退治後まで読むと、敵役の内側に残された苦しみや社会の規範が見えてきます。

土地の女性を鬼女のモデルと紹介する場合は、後世の観光伝説か、同時代文書に名があるかを確認します。実在人物への根拠のない悪評を繰り返さないためです。

鬼女が登場する能・芸能

黒塚・安達原

旅僧を襲う老女の正体が鬼であることが明かされる能です。

紅葉狩

山中の美女が鬼へ変わり、平維茂と戦う能です。

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道成寺

鐘供養へ現れた白拍子が過去の執着を示す能で、般若の表現と結びつきます。

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鬼女が登場する絵画・現代作品

鬼女を描く錦絵

角、乱れ髪、武将との戦いを強い動きで表しました。

漫画・ゲーム

悲劇的な過去を持つ敵、山の支配者、復讐者など多様な役で登場します。

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鬼女についてよくある質問

鬼女は一体の妖怪ですか。

いいえ。女性の鬼や鬼へ変わった女性を広く指す類型名で、紅葉や安達ヶ原の鬼婆などは別の物語です。

般若と同じですか。

般若は能面の名です。嫉妬に苦しむ女の役で使われ、『葵上』『道成寺』『黒塚』などに登場します。角と牙を持ちながら、眉と目尻には悲しみが彫られています。

女性は怒ると鬼になるという話ですか。

そのように単純化できません。山の異界、政治的な対立、孤独や排除など、作品ごとに背景が異なります。

鬼女に会える場所はありますか。

総称なので一つの場所はありません。個別作品には安達ヶ原、戸隠、道成寺などの舞台があります。

鬼女と併せて覚えたい言葉・用語

般若(はんにゃ)

強い怒りと苦しみを表す能面。鬼女の役で用いられる。

黒塚(くろづか)

安達ヶ原の鬼婆を扱う能の題名として知られる。

紅葉狩(もみじがり)

山中の美女が鬼へ変わる物語を扱う能。

鬼女の参考資料

この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。

  1. 青空文庫 折口信夫「鬼の話」