浦戸湾で「ジャン」と鳴る音。聞こえると魚が捕れなくなる。
孕のジャンとはどんな妖怪か
孕のジャンは、高知県の浦戸湾の民間伝承における怪異です。単に「ジャン」ともいいます。
「孕」とは、高知の海岸に並行する山脈が湾に中断された両側の突端部と、その海峡とを含む地名です。
地名です。
そして、音の怪異です。
海の上で「ジャン」と物音がする現象であり、この音が聞こえると、漁でまったく魚が捕れなくなるといいます。
魚が消えます。
ある怪談では、光も伴います。
暗い湾内がパッと明るくなり、落雷のように「ジャン」と音がして、湾内のあちこちに「ジャン」「ワンワン」と響きわたり、それきり魚がまったく捕れなくなったといいます。
孕のジャンの漢字表記と読み方
読みは「はらみのじゃん」です。
「孕」は地名です。 高知の海岸に並行する山脈が湾に中断された両側の突端部と、その海峡を指します。
「ジャン」は音です。
そして、言葉の由来にもなったとされます。
物事がだめになる「おじゃん」という言い回しは、江戸時代に火事の鎮火を知らせる半鐘の音が由来といわれるほか、この怪異を由来とする説もあります。
似た話もあります。
高知の宇佐湾である者が夜釣りをしていたところ、そばでイルカが「ドボン」と音を立て、釣りの邪魔をしたという話もあります。 「ドボン」もまた、だめになることを意味する博打用語です。
孕のジャン(はらみのじゃん)
もっとも一般的な表記。
ジャン(じゃん)
単にこう呼ぶこともある。
孕のジャンの姿と特徴
孕のジャンには、姿がありません。
あるのは、音と光です。
海の上で「ジャン」と物音がする。
暗い湾内がパッと明るくなる。
落雷のように「ジャン」と音がする。
湾内のあちこちに「ジャン」「ワンワン」と響きわたる。
そして、結果が残ります。
それきり魚がまったく捕れなくなったといいます。
昭和になっても、聞かれました。
昭和初期においても、浦戸湾で夜釣りする者は一度や二度、必ず遭っている不思議な現象といわれました。
孕のジャンの伝承物語
海底が昼間のように輝く
昭和の記録にも、具体的な話があります。
ある者が昭和20年代に夜釣りをしていたときのことです。
海の様子が変わります。
それまで静かだった海で急に魚たちが跳ね回り始めました。
魚が騒ぎます。
そして、月に照らされていた海面が突然真っ暗になったかと思うと、
押し寄せる波とともに海底が昼間のように輝き、「ジャーン」という音が響きました。
海底が光ります。
それきり魚がとれなくなったといいます。
暗くなり、光り、鳴ります。
この順序が、地の底から来るものを思わせます。
寺田寅彦は地鳴りと見た
孕のジャンには、科学者の考察があります。
明治時代の物理学者・寺田寅彦です。
高知近辺では飛鳥時代に白鳳地震、江戸時代には宝永地震や安政南海地震などの大規模の地震があったこと、
孕の地形は山々が断層線で中断されており地殻の割れ目を示していることから、ジャンの音を地震と関連づけて考えました。
断層です。
孕付近は地震によって地殻のゆがみが生じており、表層岩石の内部での小規模の地すべりにともなう地鳴り現象がジャンだと推察していました。
地鳴りです。
海底が光ったという話とも合います。
関東大震災のような大地震の前には発光現象の目撃が多いといわれます。
岩が割れると光る
発光については、実験の裏付けがあります。
1990年にイギリスの科学雑誌『ネイチャー』に発表された、通産省機械技術研究所・榎本祐嗣らの実験結果です。
内容はこうです。
安山岩など岩石破壊の際には荷電粒子が多く放出されることが判明しています。
岩が割れると、粒子が出ます。
光る仕組みの手がかりになります。
これらは直接ジャンの解明になるとはいえないものの、解決の糸口になるとの意見もあります。
断定はされていません。
音が鳴り、海が光り、魚が消える。 三つが同時に起きる説明としては、地殻の動きがもっとも近いものです。
孕のジャンの伝承地域
孕のジャンは、高知県の浦戸湾に伝わります。
「孕」とは、高知の海岸に並行する山脈が湾に中断された両側の突端部と、その海峡とを含む地名です。
孕の地形は山々が断層線で中断されており、地殻の割れ目を示しているとされます。
似た話は、隣の湾にもあります。
高知の宇佐湾では、イルカが「ドボン」と音を立て、釣りの邪魔をしたという話が伝わります。
湾そのものが舞台であり、この名で祀られた社や碑は確かめられていません。この欄は空のままにしてあります。
孕のジャンの正体と考えられているもの
孕のジャンについては、次のように整理できます。
一つめは、音です。海の上で「ジャン」と物音がする現象であり、この音が聞こえると、漁でまったく魚が捕れなくなるといいます。
二つめは、光です。暗い湾内がパッと明るくなる、海底が昼間のように輝くといった記録があります。
三つめは、土佐の三不思議です。少年向け雑誌『日本之少年』では、土佐の三不思議の一つとして数えられていました。
四つめは、地鳴りです。寺田寅彦は、孕付近は地震によって地殻のゆがみが生じており、表層岩石の内部での小規模の地すべりにともなう地鳴り現象がジャンだと推察しました。
五つめは、言葉です。物事がだめになる「おじゃん」という言い回しに、この怪異を由来とする説もあります。
孕のジャンは、地の底の動きと結びつけられてきました。 音と光と魚の異変が、同時に起きるためです。
孕のジャンをめぐる妖怪のつながり
孕のジャンが登場する作品
孕のジャンは、科学の側からも追われた怪異です。
寺田寅彦が地鳴りと見立て、後の岩石破壊の実験がその手がかりになりました。
資料は高知の民間伝承と、物理学の考察に分かれます。
孕のジャンが登場する研究
寺田寅彦の随筆
孕付近の地殻のゆがみと地鳴り現象として、ジャンを考察しています。
孕のジャンが登場する漫画・アニメ
妖怪をまとめて扱う作品
音の怪異として、海鳴りや天狗倒しと並べて取り上げられます。
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孕のジャンについてよくある質問
孕のジャンとは何ですか。
高知県の浦戸湾の民間伝承における怪異で、海の上で「ジャン」と物音がする現象です。この音が聞こえると、漁でまったく魚が捕れなくなるといいます。
「孕」とは何ですか。
高知の海岸に並行する山脈が湾に中断された両側の突端部と、その海峡とを含む地名です。
どんな様子だったのですか。
暗い湾内がパッと明るくなり、落雷のように「ジャン」と音がして、湾内のあちこちに「ジャン」「ワンワン」と響きわたり、それきり魚がまったく捕れなくなったといいます。
正体は何ですか。
寺田寅彦は、孕付近は地震によって地殻のゆがみが生じており、表層岩石の内部での小規模の地すべりにともなう地鳴り現象がジャンだと推察しました。
孕のジャンと併せて覚えたい言葉・用語
浦戸湾(うらどわん)
高知県の湾。孕のジャンが聞かれる場所。
寺田寅彦(てらだとらひこ)
明治から昭和の物理学者・随筆家。高知の出身。
おじゃん(おじゃん)
物事がだめになること。この怪異を由来とする説もある。