鳥のような顔で金槌を振り上げる妖怪。絵巻に解説文はない。

尾田淑 「百鬼夜行絵巻 金槌坊」 1832年 / パブリックドメイン 出典
金槌坊とはどんな妖怪か
金槌坊は、妖怪絵巻に描かれた妖怪です。
熊本県八代市の松井文庫が所蔵する江戸時代の妖怪絵巻『百鬼夜行絵巻』にあります。
姿は、二つの特徴でできています。
鳥のような顔。
金槌を振り上げた姿。
それだけです。
解説文が一切ないため、どのような妖怪かは不明です。
同じ姿が、別の絵巻にもあります。
国立歴史民俗博物館所蔵の『化物絵巻』や国際日本文化研究センター所蔵の『化物尽絵巻』にも、まったく同様の姿に描かれた妖怪が見られます。
こちらは「大地打」(だいちうち)という名称で描かれています。
金槌坊の漢字表記と読み方
読みは「かなづちぼう」です。
金槌を持つ坊主、という形の名です。
別の絵巻では、名が違います。
「大地打」(だいちうち)です。
大地を打つ、という意味に読めます。
そして、後年には別の名でも紹介されました。
荒俣宏の監修による妖怪フィギュア『陰陽妖怪絵巻』(2002年)に附属されていたカードでは、大蟻の名前で紹介されています。
蟻です。
その色彩や姿からウサギ(黒兎)あるいはアリ(黒蟻)の妖怪ではないかとも解説されています。
金槌坊(かなづちぼう)
松井文庫の『百鬼夜行絵巻』での名。
大地打(だいちうち)
『化物絵巻』『化物尽絵巻』での名。
大蟻(おおあり)
荒俣宏監修の企画で紹介された名。
金槌坊の姿と特徴
金槌坊の姿は、二点だけです。
鳥のような顔。
金槌を振り上げた姿。
くちばしがあります。
そして、元になった絵があります。
デザイン上のモデルとなったのは、室町時代の『百鬼夜行絵巻』に描かれている槌を振り上げている姿の妖怪であると考えられています。
この点は、鳥山石燕の妖怪画集『百器徒然袋』に描かれている「槍毛長」にも類似しています。
同じ主題は、多くの絵巻にあります。
真珠庵に所蔵されている作品をはじめ、江戸時代の禅宗の僧・白隠の描いた絵巻物『法具変妖図』にも槌を振り上げている妖怪が見られ、本項「金槌坊」の姿に似たくちばしの生えたような顔をして描かれています。
金槌坊の伝承物語
名が三つある
石橋を叩いて渡る
妖怪研究家・多田克己は、言葉遊びの解釈を示しています。
用心深い様子を「石橋を叩いて渡る」ということ。
頭の上がらない様子を「金槌の川流れ」ということ。
二つの慣用句です。
そこから、こう読みます。
臆病なほどに用心に用心を重ねる様子、
常に頭が上がらず人の下積みになっている様子を擬人化したもの。
もしくは、臆病者に取り憑いた用心棒のような存在ではないか。
金槌には、二つの意味があります。
叩く道具と、泳げない人です。
「金槌の川流れ」は、頭が上がらないことのたとえです。
道具の名が、そのまま性格の名になっています。
大蟻という設定
昭和以後には、新しい由来がつけられました。
荒俣宏の監修による妖怪フィギュア『陰陽妖怪絵巻』(2002年、造型企画制作・海洋堂、販売・角川書店)に附属されていたカード『陰陽妖怪絵札』ならびにその解説冊子です。
そこでは「大蟻」と呼ばれます。
そして、こんな設定が語られます。
蟻たちは土で蟻塚を作るため、かつては古墳を作るひとびとの信仰対象となっていたが、
古墳の風習の衰退につれ信仰を忘れられたことを怨んで化け物になり、
人間を槌で無差別に叩き殺し、殺した人間を同様の大蟻の妖怪に生まれ変わらせる妖怪となった。
これは、企画のための設定です。
絵巻に解説文はありません。 この図鑑では、そこを分けて記しています。
金槌坊の伝承地域
金槌坊には、訪ねられる伝承地がありません。
江戸時代の妖怪絵巻に描かれた妖怪であり、土地の言い伝えとして採られたものではないためです。
熊本県八代市の松井文庫が『百鬼夜行絵巻』を所蔵しています。
国立歴史民俗博物館の『化物絵巻』、国際日本文化研究センターの『化物尽絵巻』にも同じ姿があります(「大地打」)。
元になったのは、室町時代の『百鬼夜行絵巻』に描かれている槌を振り上げている姿の妖怪と考えられています。 真珠庵の作品などにも同じ主題が見られます。
無い場所を、あるように書くことはしません。この欄は空のままにしてあります。
金槌坊の正体と考えられているもの
金槌坊については、次のように整理できます。
一つめは、姿です。鳥のような顔の妖怪が、金槌を振り上げた姿で描かれ、解説文が一切ないためどのような妖怪かは不明です。
二つめは、三つの名です。金槌坊(松井文庫)、大地打(『化物絵巻』『化物尽絵巻』)、大蟻(荒俣宏監修の企画)。
三つめは、室町の絵です。デザイン上のモデルとなったのは、室町時代の『百鬼夜行絵巻』に描かれている槌を振り上げている姿の妖怪であると考えられ、石燕の「槍毛長」にも類似しています。
四つめは、言葉遊びです。多田克己は「石橋を叩いて渡る」「金槌の川流れ」から、臆病なほどに用心を重ねる様子、常に頭が上がらず人の下積みになっている様子の擬人化ではないかと解釈しています。
五つめは、後年の設定です。大蟻として、古墳の信仰を忘れられた怨みで化け物になったという設定が企画のために作られました。
確かなのは、絵と名だけです。 同じ絵に、三つの名がついています。
金槌坊をめぐる妖怪のつながり
金槌坊が登場する作品
金槌坊は、同じ絵に三つの名がついた例です。
金槌坊、大地打、大蟻。どの絵巻にも解説文はありません。
資料は江戸の妖怪絵巻と、その研究に分かれます。
金槌坊が登場する古典
法具変妖図
白隠の絵巻物。槌を振り上げている妖怪が見られます。
金槌坊が登場する研究
金槌坊が登場する漫画・アニメ
妖怪をまとめて扱う作品
絵巻に描かれた名前だけの妖怪として取り上げられます。
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金槌坊についてよくある質問
金槌坊とはどんな姿ですか。
鳥のような顔の妖怪が、金槌を振り上げた姿で描かれています。解説文が一切ないため、どのような妖怪かは不明です。
ほかの名前はありますか。
国立歴史民俗博物館所蔵の『化物絵巻』や国際日本文化研究センター所蔵の『化物尽絵巻』では「大地打」(だいちうち)という名称で描かれています。
元になった絵はありますか。
室町時代の『百鬼夜行絵巻』に描かれている槌を振り上げている姿の妖怪がモデルと考えられています。石燕の『百器徒然袋』の「槍毛長」にも類似しています。
どんな解釈がありますか。
多田克己は「石橋を叩いて渡る」「金槌の川流れ」から、臆病なほどに用心に用心を重ねる様子や常に頭が上がらず人の下積みになっている様子を擬人化したものではないかとしています。
金槌坊と併せて覚えたい言葉・用語
大地打(だいちうち)
『化物絵巻』などでの同じ妖怪の名。
金槌の川流れ(かなづちのかわながれ)
頭が上がらないことのたとえ。
真珠庵(しんじゅあん)
京都・大徳寺の塔頭。『百鬼夜行絵巻』を所蔵する。