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福井県

びしゃがつく(ビシャガツク)とはどんな妖怪か|姿と伝承

びしゃがつく  / ビシャガツク

そのほか幽霊と霊 各地の伝説

福井県の旧坂井郡で、冬の霙や雪の夜道を歩く人の後ろから聞こえるとされた足音の怪異。

びしゃがつくの姿を描いた図

藤谷良秀 「北潟湖と鹿島の森(福井県あわら市)」 2013年 / CC BY-SA 3.0 出典

びしゃがつくとはどんな妖怪か

びしゃがつくは、夜道で足音がついてくる怪異です。冬の霙や雪の夜に語られました。国際日本文化研究センターのデータベースには、1938年の柳田国男「妖怪名彙(三)」と、1956年の『宮城縣史 民俗3』に基づく二件が登録されています。

どちらも伝承地域は福井県の旧坂井郡です。現在の地理では、日文研の地域欄があわら市・坂井市を示します。姿、顔、手足は記されず、後ろから聞こえる濡れた足音によってだけ存在を知ります。

1956年の記録は「べとべとさんとほぼ同じ」と整理します。両者に共通するのは、姿の見えない何者かの足音が後ろからついてくる点です。一方、びしゃがつくには、べとべとさんのように道を譲る言葉をかける話は伝わっていません。

「びしゃ」は濡れた足音、「つく」は後をつく動作を思わせます。ただし、確認できる原資料には語源の説明がなく、呼称がどのように生まれたかは分かっていません。

びしゃがつくの漢字表記と読み方

読みは「びしゃがつく」です。公的データベースでは「ビシャが付く」と「ビシャがつく」の二表記が確認できます。

呼称は一語の固有名のようにも、「びしゃびしゃという音が後につく」という短い説明のようにも読めます。資料では「付く」と平仮名の「つく」の二表記があり、それ以外の漢字表記や語源は確認されていません。

ビシャが付く(びしゃがつく)

1938年の事例を整理した日文研カードの漢字交じり表記。

ビシャがつく(びしゃがつく)

1956年の事例を整理した日文研カードの表記。

びしゃがつく(びしゃがつく)

一般的な平仮名表記。

びしゃがつくの姿と特徴

びしゃがつくには見える姿が記録されていません。白い影、濡れた人、動物、幽霊の形を与える根拠はありません。

分かるのは聴覚的な特徴です。冬、霙や雪の降る夜に道を歩くと、背後からびしゃびしゃという足音が聞こえます。立ち止まったとき、振り返ったとき、どこまで続くかは中心記録に詳しくありません。

伝承で語られるのは、濡れた夜道の環境と、自分以外の歩行を思わせる音です。姿を見たという記述はなく、びしゃびしゃと続く足音が、見えない怪異の存在を知らせます。

びしゃがつくの伝承記録

  1. 1938年「妖怪名彙(三)」に記された一文
  2. 霙と雪がつくる「びしゃびしゃ」という夜道
  3. べとべとさんは道を譲れば消える

1938年「妖怪名彙(三)」に記された一文

日文研データベースの第一のカードは、柳田国男「妖怪名彙(三)」を典拠とします。『民間伝承』3巻12号・通巻35号、1938年8月20日発行です。

要約は、越前の坂井郡で冬の霙や雪の夜道を歩くと、後ろからびしゃびしゃと足音が聞こえることがあり、それを「ビシャが付く」と呼ぶというものです。怪物が襲う長い筋ではなく、出来事と呼び名を対応させた記録です。

話は短く、追跡、会話、退治の場面はありません。記録に残るのは、1938年という年月、越前の坂井郡、冬の霙や雪、後ろから続く足音です。

霙と雪がつくる「びしゃびしゃ」という夜道

びしゃがつくは、乾いた夏道ではなく、冬の霙や雪という条件と結び付きます。霙は雨と雪が混じり、路面、履物、衣服を濡らします。足を運ぶたびに水を含んだ音が出やすい環境です。

記録は、音の原因や、振り返ったときに何が見えたかを説明していません。天候と足音を切り離さず、霙や雪の夜に起こる怪異として伝えています。

北陸の冬の具体的な環境が、後ろから来る何者かの足音として「びしゃがつく」と名づけられました。霙や雪という季節条件が、この怪異をほかの足音の伝承から分けています。

べとべとさんは道を譲れば消える

1956年の『宮城縣史 民俗3』に基づくカードは、びしゃがつくを「べとべとさんとほぼ同じ」とします。両者は、夜道で姿を見せず、後ろから足音がつく点で似ています。

一方、べとべとさんには、道の端へ寄って「先へお越し」などと声をかける話が知られます。確認したびしゃがつくの二記録には、その言葉も、道を譲れば音が消えるという結末もありません。

共通点は、姿のない足音が後ろから続くことです。びしゃがつくは冬の霙や雪と結び付き、声をかけて道を譲る対処法が伝わっていない点で異なります。

びしゃがつくの伝承地域

伝承地は越前の旧坂井郡です。日文研データベースは現在のあわら市・坂井市を地域欄に示します。

ただし、どの道路、橋、村で採録されたかはカードに記されていません。地図が示すのは、現在のあわら市・坂井市にまたがる伝承地域の範囲です。示しているのは伝承の残る地域です。

旧坂井郡(きゅうさかいぐん)

びしゃがつくの伝承地域

地図で開く

旧坂井郡の所在地:福井県あわら市・坂井市

日文研データベースの地域欄に基づく範囲です。

資料には特定の道路、橋、集落の記載はありません。

びしゃがつくの正体と考えられているもの

びしゃがつくの正体は、一つの生物や霊として確定していません。資料には姿がなく、音だけが記録されます。

1938年と1956年の二つの記録は、いずれも旧坂井郡の怪異として、冬の霙や雪と後ろから続く足音を結び付けています。怪物の名前というより、特定の条件で起こる出来事の呼び名に近い形です。

濡れた冬道で聞こえる正体不明の足音が、土地では「びしゃがつく」という名を持つ怪異として記憶されました

びしゃがつくをめぐる妖怪のつながり

びしゃがつくが記録された資料

びしゃがつくの記録は、柳田国男「妖怪名彙(三)」と『宮城縣史 民俗3』に残されています。1938年の記録は冬の霙や雪の夜道に続く足音を伝え、1956年の記録はべとべとさんとほぼ同じ型の怪異として紹介しています。

びしゃがつくが記録された民俗資料

妖怪名彙(三)

柳田国男が1938年の『民間伝承』へ掲載した中心記録。

宮城縣史 民俗3

1956年の記録で、びしゃがつくをべとべとさんと比較しています。

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びしゃがつくについてよくある質問

びしゃがつくとはどんな妖怪ですか。

福井県の旧坂井郡で、冬の霙や雪が降る夜道を歩くと、後ろからびしゃびしゃという足音がついてくるとされた、姿の見えない怪異です。

びしゃがつくとべとべとさんは同じですか。

1956年の資料はほぼ同じ型を伝えます。細部は食い違います。びしゃがつくは霙や雪が特徴で、べとべとさんの声かけによる対処法は確認できません。

びしゃがつくはどこに伝わりますか。

越前の旧坂井郡です。日文研データベースは現在の福井県あわら市・坂井市を示します。

びしゃがつくの姿や正体は分かっていますか。

中心記録には姿がありません。濡れた路面の足音や水雪の音は候補になりますが、当時の体験が一つの自然現象だったと確定することはできません。

びしゃがつくと併せて覚えたい言葉・用語

(みぞれ)

雨と雪が混じって降る現象。びしゃがつくの出現条件として記録される。

坂井郡(さかいぐん)

越前国北部にあった郡。伝承地域は現在のあわら市・坂井市に対応する。

妖怪名彙(ようかいめいい)

柳田国男が各地の怪異の呼称と短い事例を集めた記録。

びしゃがつくの参考資料

この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。

  1. 国際日本文化研究センター「ビシャが付く」
  2. 国際日本文化研究センター「ビシャがつく」
  3. 兵庫県立美術館ネットミュージアム 柳田国男館