愛媛県南予の山道で突然ひどい空腹に襲われ動けなくなる怪異。穀物や弁当に残した米を口にすると離れると語られた。

ジキトリとはどんな怪異か
ジキトリは、山道で人を動けなくする空腹です。1943年に紹介された北宇和郡明治村目黒の話では、猟師が肉を食べても治らず、穀物を食べる必要がありました。1958年の記録では、出る場所が決まっており、弁当を少し残すことで備えました。
見える妖怪の姿より、道中で突然起きる飢えと、それを穀物一口で鎮める経験が物語の中心です。
ジキトリの漢字表記と読み方
「ジキトリ」は「じきとり」と読みます。「食を取る」と連想できる名ですが、採録カードの呼称欄は片仮名です。漢字の「食取」を古い共通表記と決めることはできません。
ジキトリ(じきとり)
南予の民俗記録に見られる呼称。
ヒダル神・餓鬼仏(ひだるがみ・がきぼとけ)
急な飢えで動けなくなる近い怪異名。地域と記録ごとに呼び方が異なる。
ジキトリの姿と特徴
1943年の猟の話は、ジキトリの顔、体、衣服を描きません。1958年の記録は山道に亡霊が出るとしますが、その姿を細かく記しません。現れる徴は、人の体を襲う急な空腹と脱力です。
痩せた餓鬼が背中へ乗る図は連想しやすい表現ですが、南予の採録すべてに見える姿として書かれてはいません。
ジキトリの伝承記録
猟の途中で、突然の飢えに動けなくなる
1943年に『民間伝承』へ掲載された大藤時彦「ヒダル神」は、当時の北宇和郡明治村目黒の話を紹介します。猟に出た一人がジキトリに憑かれ、激しい空腹に襲われました。
山中では食事の場所や時間が限られ、動けなくなることが命に関わります。ジキトリは遠くに姿を見せる怪物ではなく、それまで歩いていた人の体へ急に起きる変化として語られました。猟の目的地へ着く前に、歩行そのものを突然止めてしまう怪異です。
肉を食べても治らず、穀物を口にする
猟師は手元にあった肉を食べましたが、ジキトリは離れませんでした。この話では、空腹を満たす物なら何でもよいのではなく、穀物を食べなければ治らないとされます。
猟で得やすい肉と、家から持って出る米や穀物が対照になります。山へ入る前に主食を携える生活上の備えが、憑き物を離すための決まりとして物語に組み込まれています。同じ食物でも役割がはっきりと違うところに、南予の採録の具体性があります。
弁当を食べ切らず、一口を残しておく
1958年の「南予の狩り、俗信」では、ジキトリが出る山道の場所は決まっているとされ、遭うとひどい空腹で動けなくなります。防ぐため、弁当は必ず少し残しておきました。
もし全部食べてしまっても、ほかの人から少量の弁当を分けてもらい、自分の箱へ入れておけばよいとされます。一口の予備を持つ習慣が、同行者同士で食物を融通する備えにもなっています。自分だけでなく、同じ道を行く人の残り飯も助けになります。
ヒダル神や餓鬼憑きと重なる南予の名
高い山で急に空腹になり、米粒を食べると治る怪異は、愛媛の別記録でヒダル神、餓鬼仏とも呼ばれます。紀伊や四国の各地にも、ダル、ダリなど近い話があります。
ジキトリの特徴は、南予の呼称と、肉ではなく穀物を求める猟の話、弁当に一口を残す山道の習俗です。広い飢え憑きの仲間であっても、この三点が地域の記録を具体的にしています。別名だけでなく、食べ物の種類と山へ向かう日々の旅支度に土地の経験が表れます。
ジキトリの伝承地域
地図は1943年の記録にある旧明治村目黒の地域を示します。1958年のカードは北宇和郡までで、特定の峠名を示しません。現代に急な空腹、冷汗、脱力が起きた場合は、伝承上の方法だけに頼らず休息と救助を優先してください。
旧明治村目黒・南予山間部(きゅうめいじむらめぐろ・なんよさんかんぶ)
ジキトリの採録地域
旧明治村目黒・南予山間部の所在地:愛媛県北宇和郡松野町目黒
1943年の猟の話が旧明治村目黒を採録地としています。
怪異が現れる山道や私有地を特定する資料は残っていません。
ジキトリの正体と考えられているもの
ジキトリは、山中で人を襲う急な飢えを、飢えた存在が憑く出来事として捉えた怪異です。南予の記録では、肉では離れず穀物を口にすると治ること、山へ入る人が弁当を一口残して備えたことが一続きになっています。食物を切らさず、同行者からも分けてもらえるようにする旅支度が、怪異への具体的な対処として伝えられました。猟で得た肉が目の前にあっても主食の代わりにならないという細部が、この怪異の芯にあたります。山へ入る前に米を用意し、食べ切らず残すという、南予の暮らしに根差した怪異です。
ジキトリをめぐる妖怪のつながり
ジキトリが登場する作品
ジキトリは、ヒダル神と同じ枠のなかにあります。
高い山で急に空腹になり、米粒を食べると治る。 この形は紀伊や四国の各地にあり、ダル、ダリ、ヒダル神などと呼ばれてきました。
ジキトリを分けているのは、南予という土地、肉ではなく穀物を求める猟の話、弁当に一口を残す習俗の三点です。別名だけでなく、食べ物の種類と山支度に土地の経験が表れています。
ジキトリが登場する民俗学
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ジキトリについてよくある質問
ジキトリとはどんな怪異ですか。
愛媛県南予の山道や猟で人へ憑き、突然の激しい空腹と脱力で動けなくするとされた、姿の定まらない飢えの怪異です。
ジキトリに遭うとどうしたと伝わりますか。
1943年の話では穀物を食べ、1958年の記録では弁当を一口残しておくとされます。肉を食べても治らなかった例が特徴的です。
ジキトリとヒダル神は同じですか。
急な飢えで動けなくなる点は重なり、愛媛でも併記されます。ジキトリは南予の呼称と、穀物や残した弁当に関する固有の採録を持ちます。
急に空腹で動けないとき、米粒だけでよいですか。
米を残すのは伝承上の備えです。現実の山中で冷汗、震え、意識低下などがある場合は、安全な場所で休み、補給と救助・医療を優先する必要があります。
ジキトリと併せて覚えたい言葉・用語
南予(なんよ)
愛媛県南部の地域。ジキトリの伝承が採録された。
餓鬼憑き(がきつき)
飢えた霊的存在が人に憑き、激しい空腹や異常を起こすという考え。
明治村目黒(めいじむらめぐろ)
現在の松野町目黒。1943年のジキトリ記録の採録地。
ジキトリの参考資料
この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。