近江水口で盗賊に殺された地黄煎売りの執心が、雨夜に膝頭松を飛ぶ陰火となった怪異。

速水春暁斎 「地黄煎火」 1801年 / パブリックドメイン 出典
地黄煎火とはどんな妖怪か
地黄煎火は、近江国水口の泉縄手に現れた怪火です。地黄煎という飴を売る男が、持っていた金を狙う盗賊に殺されました。
奪われた金を手放せない思いは死後も残り、雨の夜になると陰火になって、膝頭松の周囲を飛び回ったといいます。売り物の名、殺された街道、火が飛ぶ松までが一続きになった怪談です。
地黄煎火の漢字表記と読み方
「じおうせんび」と読みます。「地黄煎」は男が売っていた飴の名です。
地黄煎火(じおうせんび)
地黄煎売りの死から生まれた火の名。
地黄煎火の姿と特徴
雨の夜に飛ぶ陰火です。膝頭松の周囲を離れずに動き、殺された地黄煎売りの執心とされます。古図では火とともに大きな怪異が描かれることもありますが、話の中心は雨夜の松を飛ぶ火です。
地黄煎火の伝承物語
地黄煎売りが、水口の街道を歩く
近江国水口は、旅人や荷物が行き交う東海道の宿場でした。その街道で、男は地黄煎という飴を売り歩いていました。
名のある武士や僧ではなく、日々の商いで金を得る行商人です。怪火の名には、男の本名ではなく、最後まで手にしていた売り物が残りました。
泉縄手で、盗賊に金を奪われる
男が泉縄手へ差しかかると、盗賊が所持金を狙って襲います。男は金を奪われ、その場で命まで失いました。
旅人が通る街道は、町と町を結ぶ一方、ひと気が途切れれば盗賊に狙われる場所にもなります。地黄煎火の物語は、商いの道が死の場所へ変わるところから動きます。
奪われた金への執心が、雨夜の火になる
殺された男は、奪われた金への思いを残しました。その執心は消えず、雨の夜になると陰火になって現れます。
金への執着は欲深さの説教として外から付けられたものではなく、働いて得たものを暴力で奪われた男が、その場所から離れられない理由です。
陰火が、膝頭松の周囲を飛び回る
火が現れるのは泉縄手の膝頭松です。暗い雨の中、陰火は松の周囲を飛び回りました。
火が離れないのは、殺された場所です。売り歩いた地黄煎、命を奪われた街道、執心が宿る松のそばを巡り続けることで、非業の死が土地の怪談になりました。
地黄煎火の伝承地域
舞台は近江国水口の泉縄手、現在の滋賀県甲賀市水口町周辺です。膝頭松の現在の座標は確認できません。
水口・泉縄手(みなくち・いずみなわて)
地黄煎火の伝承地域
水口・泉縄手の所在地:滋賀県甲賀市水口町
地黄煎売りが殺され、雨夜に火が現れたとされる街道筋です。
膝頭松の現在位置は地図上で確定していません。
地黄煎火の正体と考えられているもの
地黄煎火の正体は、盗賊に殺された地黄煎売りの執心です。化けたのは、殺された男の執心です。男の商いと死を示す「地黄煎」という名が、雨夜の怪火へ受け継がれました。
地黄煎火をめぐる妖怪のつながり
地黄煎火が登場する作品
地黄煎火は、売り物の名が残った怪火です。
殺された男の本名ではなく、最後まで手にしていた飴の名が、火の名になりました。 名のある武士でも僧でもなく、日々の商いで金を得る行商人です。
火は泉縄手の膝頭松のまわりを飛び回ります。盗賊を追って遠くへ行くのではなく、殺された場所から離れません。
地黄煎火が登場する事典
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地黄煎火についてよくある質問
地黄煎火とはどんな妖怪ですか。
盗賊に殺された地黄煎売りの執心が、雨の夜に現す陰火です。近江水口に伝わります。
地黄煎とは何ですか。
地黄などを用いて作られ、売り歩かれた飴の名です。殺された男の商売が怪火の名前に残りました。
地黄煎火はどこに現れますか。
近江国水口の泉縄手にあった膝頭松の周囲です。雨の夜に飛び回るとされます。
地黄煎火はなぜ火になりましたか。
男が金を奪われて殺され、その金への執心が死後も泉縄手に残ったためです。
地黄煎火と併せて覚えたい言葉・用語
地黄煎(じおうせん)
地黄などを用いた飴。近世には行商人が売り歩きました。
陰火(いんか)
死者の霊や執念に結び付けて語られる、光の弱い怪火。
縄手(なわて)
田の間などを通る細長い道。泉縄手は怪談の舞台となる街道筋です。
地黄煎火の参考資料
この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。