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全国に伝わるもの

隠里(かくれざと)とはどんな妖怪か|姿と伝承・登場する作品

隠里  / カクレザト

そのほか 鳥山石燕の絵

山奥や洞窟の先にあるという別天地。二度と行き着けない。

隠里の姿を描いた図

鳥山石燕 「今昔百鬼拾遺 隠里」 1781年 / パブリックドメイン 出典

隠里とはどんな妖怪か

隠里はひとことで言えば、一度きりしか行けない里です。

猟師が深い山中に迷い込み偶然たどり着いた、あるいは山中で機織りや米をつく音が聞こえた、川上から箸やお椀が流れ着いたなどという話が見られます。

そこの住民は争いとは無縁の平和な暮らしを営んでおり、暄暖な気候の土地柄です。

外部からの訪問者は親切な歓待を受けて心地よい日々を過ごしますが、もう一度訪ねようと思っても、二度と訪ねることはできないとされます。

こういった伝承の背景には平家の落人が隠れ住んだとされる集落の存在が挙げられ、実際に平家谷、平家の隠れ里と伝えられる集落が存在します。

また、仏教の浄土思想渡来以前の、素朴な山岳信仰、理想郷の観念が影響していると推測できます。

隠里の漢字表記と読み方

読みは「かくれざと」です。隠れ世」とも呼ばれます

隠田百姓村(おんでんひゃくしょうむら)とも言われますただし隠里は何の憂いもなく平和な世界であり、しかも人間の世界とは違う時の流れがあります。

普通の人はそこに行けませんが、善良な者にはその世界を垣間見る機会が与えられることがあります。

隠里(かくれざと)

石燕の絵に添えられた表記。

隠れ里(かくれざと)

一般に使われる表記。

隠田百姓村(おんでんひゃくしょうむら)

同じものを指す言い方。

隠里の姿と特徴

石燕の絵の隠里は、見開きの屋敷です。

… 小さな人々が大勢。
しごと … 米をつく、荷を運ぶ、器を並べる。
建物 … 縁側の続く広い屋敷。
… 大きな人物が一人、座っている。
… 松の木と、群がる小さな人影。

怪しい姿は描かれていません。 働く人々の景色です。

隠里が登場する古典の物語

  1. 川上から椀が流れる
  2. 三年が一ヶ月に感じられる
  3. 口外すると失われる
  4. 鹿島の沖に見える島

川上から椀が流れる

『遠野物語』にも一例があります。

貧しい家の女が小川に沿って蕗を採っていくうちに道に迷い、谷の奥深くにまで分け入って豪勢な御殿を発見しました。

中に入るが人の姿が見えないので怖くなり、逃げ出します。

後日、小川の上流から赤い椀が流れて来ました。

その椀を使うと穀物をいくら使っても減らず、その家はやがて村一番の金持ちになったといいます。

三年が一ヶ月に感じられる

岩手県和賀郡の昔話です。

鬼柳村(現・北上市)の扇田甚内という人が、朝早く起きて沼を見ると若い女が手招きをしていました。==

夫婦の約束をするため家に来てくれと言われ、後を付いていくと見たこともないような世界に着きます。

契りを結び、月日が流れるにつれふるさとの妻子が気にかかり、帰ろうとします。

家へ帰ると、1ヶ月とばかり思っていたのに三年の月日がたっており、自分の法事までやっていました。

口外すると失われる

扇田甚内の話には、約束がありました。

口外してはならない、語ると二度とは会われぬと、女は泣いて言います。

家は豊かになっていました。

しかし、家内にどこに居たと問いただされ真実を吐くと、たちまちの内に甚内の腰が折れ気絶し、不具廃人となりそれ以前の貧乏になり、つまらぬ一生を送ったといいます。

得たものが、話した途端に消えます。

鹿島の沖に見える島

古代〜中世において、畿内の中央貴族・武家達が熱中した鹿島詣——いわゆる鹿島信仰にも隠れ里信仰があります。

鹿島は東国に位置する常陸国の中でも東端に位置し、世界のさいはてと観念されていました。

常世の国(ユートピア)であり、鹿島の地におもむき、鹿島の神に参詣すれば東方の海上に幻の島が見えると信じられました。==

それは海のかなたの隠れ里と言われ、黄金のあふれる陸奥の島であるとされました。

隠里の伝承地域

隠里として指せる場所は見当たりません。二度と訪ねることはできないとされるためです。

ただし、平家谷、平家の隠れ里と伝えられる集落は実際に各地にあります。 この図鑑には、山梨の七人地蔵など、落人伝説の残る土地の話も収めています。

隠里の正体と考えられているもの

隠里は、理想郷の観念が形をとったものです

日本民族学会会員・有馬英子は、庶民の求める理想郷への思いが込められていると述べています。

奥深い山中や塚穴の中、また川のはるか上流や淵の底にある別天地とされました。

背景には、平家の落人が隠れ住んだとされる集落の存在が挙げられます。

また、仏教の浄土思想渡来以前の、素朴な山岳信仰の影響も推測されます。

隠里が登場する作品

隠里は、石燕の絵『遠野物語』で読めます。

『遠野物語』では、同じ種類の家をマヨヒガと呼びます。この図鑑にも収めています。 無欲な者が椀を得るという結びが共通しています。

隠里が登場する古典

今昔百鬼拾遺

鳥山石燕、1781年。小さな人々の暮らしを見開きで描いています。

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遠野物語

柳田國男、1910年。赤い椀が流れてくる話を載せます。

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隠里が登場する研究

隠れ里をめぐる民俗研究

平家の落人集落や山岳信仰との関わりが論じられています。

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隠里についてよくある質問

隠里とは何ですか。

山奥や洞窟を抜けた先にあるとされる別天地です。争いのない平和な暮らしが営まれているとされます。

もう一度行けますか。

行けません。二度と訪ねることはできないとされます。

時間の流れは同じですか。

違います。一ヶ月と思っていたら三年たっていたという話があります。

実在の集落と関係がありますか。

平家の落人が隠れ住んだとされる集落が背景にあると考えられています。

隠里と併せて覚えたい言葉・用語

マヨヒガ(まよいが)

『遠野物語』が伝える山中の家。隠里と同じ型の話です。

常世の国(とこよのくに)

海のかなたにあるとされた理想郷。鹿島信仰と結び付きました。

隠田百姓村(おんでんひゃくしょうむら)

隠里の別の言い方。年貢を逃れた集落を指す語でもあります。