静岡県浜松市宮口(旧麁玉村)の川岸で、夜にざぶざぶと物を洗う音を聞かせるとされた狐。柳田国男が「妖怪名彙」に採った。
洗濯狐とはどんな妖怪か
洗濯狐は、夜の川岸で、ざぶざぶと物を洗う音を聞かせるとされた狐です。
元になった記録は、昭和9年(1934)に静岡県女子師範学校郷土研究会が編んだ『静岡県伝説昔話集』にあります。場所は引佐郡麁玉村宮口、いまの静岡県浜松市浜名区宮口です。宮口の東を流れる「平釜川」の岸、寺と木立のそばで、夜になると狐が出て物を洗う音を立てる、と書かれています。
柳田国男はこの記録を、昭和13年(1938)に雑誌『民間伝承』で連載した「妖怪名彙」に「センダクギツネ」として採りました。そこで洗濯狐は、遠州西部では狐の仕業とされる、夜に水辺で物を洗う音の怪としてまとめられています。
元の記録を書いた人は、狐がいることは確かだが、洗濯をするかどうかははっきりしないと添えています。
洗濯狐の漢字表記と読み方
読みは「せんだくぎつね」です。柳田国男の「妖怪名彙」が「センダクギツネ」と濁って書いています。
元の『静岡県伝説昔話集』は漢字で「洗濯狐」と書くだけで、読み仮名は付けていません。
洗濯狐(せんだくぎつね)
『静岡県伝説昔話集』での書き方です。
センダクギツネ(せんだくぎつね)
柳田国男が「妖怪名彙」で付けた読みです。
洗濯狐の姿と特徴
洗濯狐は、姿ではなく音で知られる狐です。元の記録が伝えるのは次のことだけです。
場所 … 宮口の東の平釜川の岸。寺があり、木の茂った所。
川 … 二間(約3.6メートル)ほどの幅の流れ。
時 … 夜。
音 … ざぶざぶと物を洗う音。通る人に聞こえる。
狐の姿を見た、何を洗っていた、という話はありません。記録を書いた人自身が、狐がいるのは事実らしいが、洗濯をするかどうかははっきりしない、と書いています。
洗濯狐の伝承記録
宮口の東、平釜川の岸で
『静岡県伝説昔話集』は、洗濯狐を引佐郡麁玉村の話として、次のように書いています。
引佐郡麁玉村宮口東に平釜川といはれてゐる二間位の巾の流れがある。附近に寺があり、木が茂つて居る所があるが、夜になると狐が出て川岸でザブザブ物を洗ふ音が通る人に聞えると云はれて居る。普通洗濯狐といはれてゐる。狐の居る事は事実ださうだが、洗濯するかどうかは、はつきりしない。
「普通洗濯狐といはれてゐる」とあるので、土地ではこの名で通っていたことが分かります。話の終わりには、この話を寄せた大西とき子の名が記されています。
女子師範の郷土研究会が集めた話
『静岡県伝説昔話集』は、静岡県女子師範学校の郷土研究会が県内の伝説や昔話を集めて、昭和9年に一冊にまとめた本です。一話ごとに題と郡村名が付き、終わりに話を寄せた人の名が書き添えられています。
洗濯狐の前後にも、狐の話が続いています。直前は、狐が婆さんに食わせてやると言うので付いていくと、夜が明けたら茄子畑の棚をのぞいていた、という話です。直後は、賀茂郡中川村の「狐がやられた話」です。洗濯狐は、こうした狐の話の一つとして載っています。
柳田国男の「妖怪名彙」へ
柳田国男は昭和13年から14年にかけて、雑誌『民間伝承』に「妖怪名彙」を連載し、各地の妖怪の呼び名を集めました。洗濯狐は昭和13年6月の3巻10号に、『静岡県伝説昔話集』を典拠として載っています。
ここで、宮口の平釜川という一つの川岸の話は、遠州西部では狐の仕業とされる、夜の水辺の音の怪として、より広い言い方でまとめられました。いまこの名で知られている洗濯狐は、この「妖怪名彙」の書き方によるものです。
洗濯狐の伝承地域
昭和9年の記録で「引佐郡麁玉村宮口」だった土地は、いまの浜松市浜名区の麁玉地区です。浜松市によれば、地区の中心に天竜浜名湖鉄道の宮口駅があり、麁玉協働センターも宮口に置かれています。
記録が伝える目印は、宮口の東を流れる平釜川、そのそばの寺、木の茂った所の三つです。この平釜川がいまのどの流れにあたるかは、記録からは決められません。
宮口(みやぐち)
『静岡県伝説昔話集』が伝える引佐郡麁玉村宮口
宮口の所在地:静岡県浜松市浜名区宮口
記録は、宮口の東を流れる平釜川の岸を、音の聞こえる場所としています。
浜松市の麁玉地区にあたり、地区の中心には天竜浜名湖鉄道の宮口駅があります。
洗濯狐の正体と考えられているもの
元の記録を書いた人の見方は、慎重です。狐がいるのは事実らしい。だが洗濯をするかどうかは、はっきりしない。 狐がいることは土地で事実とされていたが、狐が洗濯をするという部分は呼び名として伝わっていただけだ、という書き方です。
一方で柳田国男の「妖怪名彙」は、この名を遠州西部の妖怪の呼び名として収めました。一つの村の一つの川の話が、柳田の名彙に入ることで、地域の妖怪の名として知られるようになりました。
洗濯狐が登場する作品
『静岡県伝説昔話集』は国立国会図書館デジタルコレクションで公開されていて、洗濯狐の話を原本の画像で読めます。
洗濯狐が登場する伝説集
静岡県伝説昔話集
静岡県女子師範学校郷土研究会が編み、昭和9年(1934)に出た本です。洗濯狐は275ページにあります。
洗濯狐が登場する民俗学
妖怪名彙
柳田国男が雑誌『民間伝承』に連載した、各地の妖怪の呼び名を集めた記事です。洗濯狐は昭和13年(1938)6月の3巻10号に載っています。
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洗濯狐についてよくある質問
洗濯狐とはどんな妖怪ですか。
夜の川岸で、ざぶざぶと物を洗う音を通る人に聞かせるとされた狐です。姿を見たという記録はなく、伝わっているのは音だけです。
どこに伝わる話ですか。
昭和9年の記録では引佐郡麁玉村宮口、いまの静岡県浜松市浜名区宮口です。宮口の東の平釜川の岸とされています。
誰が記録したのですか。
静岡県女子師範学校郷土研究会の『静岡県伝説昔話集』に、大西とき子の名で載っています。その後、柳田国男が「妖怪名彙」に採りました。
本当に狐が洗濯をするのですか。
記録を書いた人自身が、狐がいるのは事実らしいが、洗濯をするかどうかははっきりしない、と書いています。土地では「洗濯狐」の名で通っていました。
洗濯狐と併せて覚えたい言葉・用語
麁玉(あらたま)
浜松市浜名区の地区の名で、かつての村の名です。
二間(にけん)
長さの単位で、約3.6メートルです。
妖怪名彙(ようかいめいい)
柳田国男が雑誌『民間伝承』に連載した、各地の妖怪の呼び名を集めた記事です。
洗濯狐の参考資料
この記事は、以下の公的・学術資料をもとに構成しています。